「ブギウギ」前半終了、スズ子への物足りなさは後半に期待<第64回>
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2023年10月2日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「ブギウギ」。
「東京ブギウギ」や「買物ブギー」で知られる昭和の大スター歌手・笠置シヅ子をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。歌って踊るのが大好きで、戦後の日本を照らす“ブギの女王”となっていく主人公・福来スズ子を趣里が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第64回を紐解いていく。
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三鷹にもついに空襲が
年内最後の「ブギウギ」は空襲が激しくなっています。京都から戻ったスズ子(趣里)は、東京駅周辺なのか、焼け野原になっている様に呆然。慌てて三鷹に戻ると、愛助(水上恒司)は無事でした。三鷹までは空襲が来なかったようです。でも、遠くの空が真っ赤に染まって、三鷹まで来そうだったと言っていました。
大阪にも空襲があって、はな湯やUSKの人たちもどうなったかわわからないとスズ子は怯えます。トミ(小雪)は芦屋の別邸に避難して無事だったそうですが、芸人たちの安否がわかりません。いや、だから、下宿や梅丸楽劇団の人たちはどうなっているのか……。
スズ子は愛助と一緒にいたくて、慰問の話を断ります。
スズ子の、好きな人となにがなんでも一緒にいたくて、ほかのことを見失ってしまう感覚は、ツヤ(水川あさみ)に似ています。前半、ツヤの物語をかなり手厚く描いていたのは、常識にとらわれず、愛一筋の情動が、このドラマを貫いているということなのでしょう。
本来、ドラマティックなはずで、ツヤでは成功していたことが、スズ子だと、なんだか唐突だし、勝手な人に見えてしまうのはなぜなのか。たぶん、趣里さんの演技がやけに少女ぽくて甘えん坊お嬢様のように見えるからでしょう。
しっかり者でいろんなことを耐えて我慢してきて、でも明るく振る舞ってきた女性が、いっとき恋人との生活にすべてを賭けたいと思うような、矛盾に欠けている気がして、
共感できないのです。
趣里さんの少女性は、十代や二十代の若い世代のかたには共感できるかもしれませんが、笠置シヅ子さんがモデルだと思って見ているおばちゃん視聴者には難しい。
そんなとき、三鷹にも空襲が。逃げ込んだ防空壕では恐怖と不安で皆、ギスギスしています。赤ん坊が泣くことに我慢ならない男性が声を張り上げます。
スズ子が「アイレ可愛や」を歌うと、赤ん坊は泣き止みました。
泣き声は敵機に聞こえてしまうと心配するのに、歌声や手拍子は問題ないのか、という疑問はさておき、防空壕がスズ子の歌声で浄化されました。
赤ん坊の母親は「アイレ可愛や」を教えてほしいとスズ子に頼みます。この歌、ヒット曲じゃないのか、そもそも、福来スズ子は有名人ではないのか、という疑問もさておきます。
愛助は「みんなスズ子さんの歌で正気に戻っていく。スズ子さんの歌には力がある」と感慨無量。銃後の人たちの生きる希望のために歌ってほしいと頼みます。
つまりスズ子は、個人の幸福を追求したいけれど、それができない。スズ子は他者のために歌っていく宿命があるということ。それはとても孤独な道を歩んでいくことになるはずです。
残りの3ヶ月、スズ子の孤独な戦いが待っているのだろうなあという気がします。
これまで少女ぽかったスズ子が、おばちゃん視聴者も共感するような、いろんな苦しみを内包しながら明るく輝く、光と影をまとった陰影深い人物へと変容していくのは、きっとこれから。それが長い物語の醍醐味であります。ゆっくり楽しみましょう。
(文:木俣冬)
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