「ブギウギ」スズ子の歌が、戦争未亡人の頑なな心の蓋を開く<第66回>
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2023年10月2日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「ブギウギ」。
「東京ブギウギ」や「買物ブギー」で知られる昭和の大スター歌手・笠置シヅ子をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。歌って踊るのが大好きで、戦後の日本を照らす“ブギの女王”となっていく主人公・福来スズ子を趣里が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第66回を紐解いていく。
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それぞれの歌
スズ子(趣里)とりつ子(菊地凛子)がそれぞれ慰問に出かけている頃、広島では原爆が落とされて、
日本中を震撼とさせていました。
スズ子は富山・高岡、りつ子は鹿児島の海軍基地へ、それぞれの慰問先で人々に歌を届けます。
りつ子は、特攻隊の若者たちから「別れのブルース」をリクエストされました。
ブルースは敵性音楽であり、軍の上層部的には士気を高める軍歌を望んでいたものの、これから戦いに赴く者たちの希望ですから、止めることはできませんでした。
上官の人たちだって、本心から敵性音楽を禁じたいわけでも軍歌が好きなわけでもないかもしれません。裏で泣いていましたし……。やむにやまれぬ状況が、人々の本当の気持ちを出せないようにしているのです。
特攻隊の方々は最後に、我慢しないで聞きたい歌を聞けたので、良かったと思うべきなのか……。いや、歌が聞けたって、戦いに身を捧げるなんて、悲しすぎます。りつ子は無力感に苛まれ、涙を流します。
若者たちはりつ子の歌を聞いたあと、笑顔で、「もう思い残すことはありません」「晴れ晴れといけます」と言います。これは哀しみに蓋をしているような気がしますが、とことん我慢して軍歌を聞くよりは半歩前進している気がします。
特攻兵のエピソードは、りつ子のモデルである淡谷のり子の実話だそうです。壮絶ですね。
高岡では、夫が戦死した静枝(曾我廼家いろは)がスズ子の歌「大空の弟」を聞いて、涙を流します。
これまで、夫はお国のために命を捧げたのだからと「つらくはないのです、悲しくもないわ」と意地を張っていた部分があった静枝ですが、スズ子の歌を聞いて、哀しみの感情を思い切り出すことができました。
歌というのは、癒しであり、楽しく元気な気分になるものであると同時に、思い切り悲しい気持ちも増幅できる。つまり、自分の感情に正直になれるという効能もある。自分の感情に素直になれずに抑えていると、心身によろしくありません。
静枝は哀しみを自覚したのみならず、夫との幸福な思い出も思い出し笑顔になります。
スズ子は羽鳥(草彅剛)から感情に正直に歌うようにアドバイスされてきています。だからこそ、スズ子の歌は、聞く人の感情を引き出すものになっているのではないでしょうか。
「歌わな」と決意するスズ子はきっと、多くの人たちのために「歌わな」と思ったことでしょう。
スズ子と楽団たちは北陸を慰問してまわる予定でしたが、金沢に行く予定は取りやめになります。
「戦況もよろしくないいまでは慰問どころとないんとちゃいますか」という山下(近藤芳正)のセリフを聞いて、2024年の今と偶然にも重なってしまったことに、驚くばかりです。
新聞を見た坂口(黒田有)の「もう日本中、どこおっても危ないとこだらけや」というセリフも、他人事ではない気持ちになりました。
戦争も災害もなく、誰もが安心に生きられることを祈るばかりです。
(文:木俣冬)
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