「ブギウギ」山下はなぜ「スズさん」と呼ぶことにしたのか<第87回>
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2023年10月2日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「ブギウギ」。
「東京ブギウギ」や「買物ブギー」で知られる昭和の大スター歌手・笠置シヅ子をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。歌って踊るのが大好きで、戦後の日本を照らす“ブギの女王”となっていく主人公・福来スズ子を趣里が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第87回を紐解いていく。
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愛子が生まれて3ヶ月
愛子が生まれて3ヶ月、ということは愛助(水上恒司)が亡くなって3ヶ月。スズ子(趣里)は、居間に、母ツヤ(水川あさみ)や愛助の写真を並べて、手を合わせます。
愛子に授乳しているときに、山下(近藤芳正)がやって来て、「すんまへんこんな格好で」と照れるところは、母親あるあるで微笑ましい。生々しく授乳の画を見せなくても、なんとなく伝わってくるものがありました。
山下はかしこまって、これからは「スズさん」と呼ぶと切り出し、スズ子はプロポーズかと思ったと返します。
愛助を失い、ひとりになったスズ子を支えようと、山下は強く決意したのでしょう。
「スズさん」とは、より親しみを込めたことと、あと、これまで「福来さん」と呼び続けたことは、愛助との結婚を認めてなかったようなもので、ちょっと反省したのかなと想像しました。でも「村山さん」ではないので、「スズさん」。
ようやく、”家族”のようになったということなのでしょう。トミ(小雪)の考える会社と家族が一緒な感覚。
山下はそろそろ仕事を……と勧めますが、スズ子はまだそんな気になれず……。ひとりになると泣いてしまう。でも懸命に泣かないように務めるのです。
と、そこへトミが訪ねてきました。最初は、村山興業にスズ子が呼び出されたのですが、行く前に、トミのほうがやって来ました。それは、育児が大変なスズ子を慮ってのことです。
「お母ちゃんかて行きとうないわ」と言っていたら来てしまうという間の悪さ。
小雪さんの赤ちゃんの抱き方は堂に入ってました。
「わては間違うてたんやろか」と問いかけるトミ。うん、間違えてたと思うぞ。結婚を許してあげるべきだった。
しばし自分語りをし、反省するトミに、スズ子はこう言います。
「家族や夫婦に間違いなんてあらしまへん」
(スズ子)
家族や夫婦に間違いなんてない。なかなか寛大な考え方です。とすれば、家族や夫婦に限ったことでなく、誰にも間違いなんてないと思いたいところです。
ようやく、トミとスズ子の対立が終了(一方的なトミの対抗心ではあったわけですが)して、雪解けと思ったところへ、トミは愛子を引き取りたいと言い出します。一瞬、ひやっとなりました。
でも、当然、スズ子は断り、トミはあっさり折れ、「また歌うてくださいね」と優しく語りかけます。
「あんさんとわてはおんなじ男をとことん愛した仲や」
(トミ)
山下のプロポーズにも似た「スズさん」呼び。トミの「おんなじ男を愛した仲」と、家族や夫婦に間違いなんてない、という考え。短い15分のなかに、これでもかと描き込まれた濃密な人間関係。決してこれがスタンダードではないと思うのだが、こういう生き方をしている人たちも確かに世の中にはいるのだろう。
愛助を挟むと母特有の嫉妬心や独占欲や、会社の社長としての強烈な理念がもたげてくるものの、個人的には福来スズ子の歌は好き。愛助がいなくなったら、素直に歌は応援できるのです。
まったく人間とは、感情によって矛盾をたくさん作り出し、一筋縄ではいかないものなのです。
でも、そこに間違いなんてない。
そして、正しいということもない。
全部、そういうものとしてしか存在しない。
トミとスズ子がちゃぶ台を前に向き合って、話す。ただその形があるだけ。
そして、スズ子は、また歌いはじめるのです。
第19週のサブタイトルは「東京ブギウギ」。
(文:木俣冬)
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