続・朝ドライフ

SPECIAL

2024年04月05日

「虎に翼」母・はる(石田ゆり子)が一転、味方になってくれた<第5回>

「虎に翼」母・はる(石田ゆり子)が一転、味方になってくれた<第5回>


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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。

日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。

ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第5回を紐解いていく。

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「若造が〜」

「私は私の人生に悔いはない。でも この新しい昭和の時代に 自分の娘にはスンッとしてほしくないってそう思っちゃったのよ!」(はる)

全部が全部そうではないとはいえ、この世には、父と娘が仲良くて、母と娘が対立するという構造は少なくありません。ただ母と娘が仲良しのパターンもあります。

「虎に翼」では、父と娘が仲良く、母と娘は対立のパターンのようです。

寅子(伊藤沙莉)はる(石田ゆり子)が公の場で賢しさを隠して「スンッ」とした顔をしていることに疑問や不満を感じていました。しかも、はるは法科進学を許してくれません。

はるにも言い分があり、寅子が頭がいいことはわかっているからこそ高等女学校に行かせたと明かします。
自分は行けなかったのだと。そこから、はるの過去――。

はるは、香川の旅館の5人きょうだいの4番目で、進学させてもらえず、旅館のために結婚することを期待されていた(「旅館にとってうまみがあるか」という表現)ことに反発し、直言(岡部たかし)を選んだ過去がありました。

最初は現状からの逃避で、誰でもよかったのかかもしれなかった。けれど、いまは後悔していないと言います。直言はものわかりもいいし、経済的にも恵まれているから悪くなかったでしょう。

そのときはるは「自分の子供の幸せを一番に考える母親」になると決意。つまり、法科進学は寅子が地獄を見る危険性があるので反対しているというわけです。そう、近しい人の反対はたいてい、心配してのことなのです。が、心配し過ぎて、可能性の芽を潰すことも往々にしてあるもので……。

「夢破れて 親の世話になって行き遅れて嫁のもらい手がなくなってそれがどんなに惨めか想像したことある?」(はる)

なんておそろしいセリフ。

「頭のいい女が確実に幸せになるには頭の悪い振りをするしかないの」
(はる)

はるはこう言って寅子を説得します。「頭のいい女が幸せになるには」ではなく「頭のいい女が確実に幸せになるには」と「確実に」が入っているところに、はるの本気を感じます。

あの人気ドラマ「逃げ恥」では、こういうことを”呪い”と看破し絶賛された役を演じた石田ゆり子さんが、ここでは呪いをかけようとする役を演じています。俳優っておもしろい。

はるはそのままお見合いのための新しい晴れ着を新調しに行くと強引に決めてしまいます。問題をそのままにして、一見穏やかな口調で強引に話をすすめるところも、はるの処世術でしょう。

女の問題を語る場が台所であるというのも意味ありげです。

寅子はしぶしぶ待ち合わせの場所・甘味処・竹もとに行くと、そこには、桂場(松山ケンイチ)が美味しそうな団子をいままさに口に入れようとしているところでーー。

寅子は、団子を食べたそうな桂場のことはまったく無視して、自分の問題をぶつけます。

桂場は団子を食べずにもったまま寅子の話を聞き、意見を述べます。
彼は意外にも寅子が法科に進むことを肯定していませんでした。
女性には難しいと言われ、反発を覚えた寅子が激しく反論していたら、

「お黙んなさい!」と援護する声が飛んで来て。

それははるでした。

はるは激しく桂場を断じ、感情が高ぶったまま店を出て、呉服屋を通り越し、法学専門書店に向かいます。さすが本の街・神田。専門書店があります。

「若造め〜」と怒りにまかせ、はるは六法全書を買って、寅子に与えます。

そのときのセリフが冒頭に引用したものです。

はるは娘の人生に関与できるのは自分だけと思っているのでしょう。だから桂場に反発した。もちろん、自分にも、親の決めたこと、社会の決まりのようなことにナットクできない時期もあったと気づいて、娘の好きにさせてあげたいとも思ったでしょう。

あるいは、はるは、自分の人生に悔いはないと言いながら、どこか自分にもほかの人生があったのではないかとふと考えたのかもしれません。

「スンッ」としていると指摘されて、そんなことはないと言い切れないものがあったのだろうなあと。この「スン?」と聞き返したときのはるの表情を映さなかったところがにくい演出でありました。

裏の段取りは全部自分が仕切っても、夫に花を持たせるスンっとした日々は確かになんだか味気ない気がします。

現代でも賢く優秀な女性たちが、結婚したとき夫さんを立て、出過ぎないようにしていることは少なくありません。おかげで夫の地位や名誉や経済的環境に守られていることもあるわけですが、ある時期、例えば子供が自立したあとなどに、ようやく自由にぐいぐいと本来の力を発揮しはじめることがあります。賢いので時期を見計らっていたのでしょう。能力のある人は意思さえあれば、いつだって遠くに出ていけるのだと筆者は思います。

学校では、寅子のことを、先生(伊勢佳世)がなにか言いたそうに見つめていて、街には物想う女性たちがとぼとぼと歩いていて、甘味屋では、はるの剣幕に、女の子がびっくりした顔で手を止めています。女性讃歌のドラマという意思の強さをひしひしと感じました。


(文:木俣冬)

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