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杉咲花の魅力を観る「5作品」——滲み出る“凄み”と“信頼感”<『朽ちないサクラ』公開中>
杉咲花の魅力を観る「5作品」——滲み出る“凄み”と“信頼感”<『朽ちないサクラ』公開中>
特に2023年後半から2024年まで、主演作が次々と公開・放映されている杉咲花。
子役の頃から演技力に定評のある彼女だが、最近は彼女の出演が発表された時点で作品のクオリティへの不安がなくなるほど、信頼感のある俳優となっていると思う。
彼女が演じたさまざまな作品を挙げながら、その魅力に迫りたい。
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映画『朽ちないサクラ』
「孤狼の血」シリーズの柚月裕子の小説が原作のこの作品。杉咲が演じる泉は、県警広報広聴課で事務として働いている。ある日、彼女が働く県警の不祥事が地元新聞にスクープされる。女子大生からのストーカー被害届受理を先延ばしにして慰安旅行に行っており、その間に女子大生はストーカーである神社の長男に殺害されてしまったのだ。
高校からの親友で新聞記者の千佳(森田想)に、刑事の磯川(萩原利久)からのお土産の話をしてしまい口止めしていた泉は、千佳を疑ってしまう。自分ではない、無実を証明すると言って立ち去った千佳は、一週間後に変死体で発見される。自分が疑ったせいで、親友が殺されてしまった……後悔する泉は、元公安の上司・富樫(安田顕)や富樫の警察学校同期で捜査一課係長の梶山(豊原功補)の助けを借り、捜査権がない立場ながら真実に迫る。
感情の起伏があまりなく、冒頭から親友を疑った序盤の泉は、杉咲が演じたほかの役に比べると好きになるポイントが少なめかもしれない。筆者も正直、はじめは富樫や梶山などほかの登場人物に惹かれていた。
しかし真犯人に狙われる危険を顧みずに捜査を続ける泉は、心配半分応援半分で目が離せなくなってくる。そして物語の後半、ある真実に辿り着いた泉が相手と対峙する瞬間、観ていたこちらの知る事実と、泉に対する印象がガラッと変わる。
震える声で、でもまっすぐに相手に立ち向かい、問うた泉。覚悟を感じるその姿に胸を打たれ、前半の抑えめの演技はこのシーンのためにあったのかもしれないとも思ったし、やはり杉咲花だからできた役なのだと思った。
ラストで彼女はある決断をする。かけがえのない親友を失い、さらに大きな真実に気づき、二重に背負って生きることになった泉。それでも前に進もうとする姿に勇気をもらった。
観賞後にタイトルの意味やメインビジュアルの意味がわかり、じわじわ効いてくる物語だった。
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ドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」
杉咲をはじめとした俳優陣の演技が毎週話題になっているドラマ。もう、こんな素晴らしい作品を無料で観ていいのだろうかと思うくらい素晴らしく、毎週夢中になって観ていた。
杉咲が演じているのは、脳外科医・川内ミヤビ。事故で脳を損傷し、2年分の記憶を失ったほか後遺症で1日しか記憶がもたないため、毎朝5時に起きて日記を読み直す。医療行為は行わず看護助手として働いていたが、アメリカ帰りの脳外科医・三瓶(若葉竜也)に後押しされ、再び脳外科医としての一歩を踏み出す。
設定からして難役なのだが、ミヤビという人が魅力的すぎる。つらい状況でも取り乱さず、症状で声を荒げる患者にも穏やかな笑顔で対応し、大事な人が自分に嘘をついていたとわかっても「何か事情があるんだと思います」と怒らない。菩薩なのかと思うくらい人間ができている。
そして共演者のインタビューでも「役に悩んでいたら杉咲さんがお手紙をくれ、杉咲さんが言ってくださっているのかミヤビ先生が言ってくださっているのかわからなくなるくらい温かい内容だった」とも言われており、杉咲自身の人間性も投影されているのかもしれない。まさに彼女でないと演じられない役だと思う。
ミヤビを仕事面でも支え、恋愛も絡んでくる三瓶が、「おちょやん」『市子』など、たびたび共演している若葉竜也だというところもポイントだ。連ドラにはあまり出ない若葉が出演を決めた理由のひとつが、杉咲から「やるよね?」と電話がきたことだというが、本当に彼以外考えられない。
この二人をはじめとした俳優陣の確かな演技が、難しい設定にリアリティーを加えていると思う。
そして、そんなミヤビが周りに支えられているだけでなく、周りのことも支えている様に励まされる。ミヤビの場合は脳の後遺症だが、そういった状況でなくても人はそれぞれ抱えているものがあり、支えながら生きているんだということを実感できる物語だ。
どのようなラストを迎えるのか気になるし、みんな絶対に幸せになってほしいと願わずにいられない。
▶︎「アンメット」を観る
映画『パーフェクトワールド 君といる奇跡』
杉咲演じるつぐみは、初恋の先輩・鮎川樹(岩田剛典)と仕事で再会。しかし彼は、事故で脊髄を損傷し、車椅子に乗っていたーー。久々の再会に喜ぶ一方で、彼を取り巻く状況の厳しさを目の当たりにする。
歩けないだけでなく、合併症の恐怖と一生付き合わなければいけない鮎川。自ら恋人に別れを告げて以来、「一生、ひとりで生きていくって決めた」という彼の気持ちを動かすつぐみ。
©2018「パーフェクトワールド」製作委員会 ©有賀リエ/講談社
普段は可愛いけれど「でも俺、たまに漏らすことあるよ」と言われて「好きになったら漏らすくらい平気ですよ!」と(食堂で)大声で言ったり、「俺のことはどうでもいいから」と言われて「どうでもいいわけないじゃないですか!」と叫んだり、時折芯の強さが垣間見える。
家族の反対にもあうが、悩みながらもまっすぐな愛を持ち続けるつぐみ。彼女がたどり着く結論にハッとさせられた。立場は違うが、「アンメット」のミヤビが周りと支え合って生きる様子とリンクする。
デートシーンが多めなのも注目ポイント。遊園地や江の島での二人のやり取りが微笑ましくてキュンキュンする。杉咲の貴重な運転シーンも見られるのだが、当時免許を持っておらず、何度もクラクションを鳴らしてしまったのだとか。
デートシーンではないのだが、杉咲花・岩田剛典・子猫という可愛い3コンボが出てくる場面もあり、画面の前で「くっ……尊い……」となった。
2018年と少し前の作品だが直近の作品に通じるテーマもあり、また役柄の違いもあり、色んな意味で楽しめると思うので、観ていない方はチェックしてみてほしい。
▶︎『パーフェクトワールド 君といる奇跡』を観る
映画『52ヘルツのクジラたち』
ハードな作品が多いなかで、個人的に最も心をえぐられたのがこの作品。杉咲が演じる三島貴瑚は幼い頃から母(真飛聖)に虐待され、義父の介護を一人で押し付けられてきた。
死のうとしていたところを岡田安吾(アンさん・志尊淳)と同級生の美晴(小野花梨)に助けられ、二人の協力もあって家を出る。冒頭ではその3年後から物語が始まり、貴瑚自身と周りの人たちの人たちの間に何が起こったのか徐々に明らかになっていく。
(C)2024「52ヘルツのクジラたち」製作委員会
他のクジラに聞き取れない高い周波数で鳴く「世界で最も孤独なクジラ」である52ヘルツのクジラと、何かしらの問題を抱えうまく生きられない人たちを重ねてタイトルがつけられた。自死やアウティング、DVなどの要素があり、苦しい内容だが、外との関わりもなく選択肢がなかった貴瑚がさまざまな経験を経て強く、自分の意思を持つようになる様子に胸を打たれた。
3年でこんなにも人は変われるんだなというほど顔つきや話し方も違っており、貴瑚を体現した杉咲を、あらためてすごい俳優なのだと思った。
また最近の作品ではどちらかというと静かに自分の置かれた状況を受け入れる役が多い印象だが、貴瑚は感情を吐露するシーンも多く、動的な役だと思う。
フラッシュバックが心配な方は無理しないでいただきたいが、迷っている方は今すぐに観てほしい作品だ。
映画『市子』
恋人の長谷川(若葉竜也)にプロポーズされた翌日、彼が仕事から戻ると失踪していた川辺市子(杉咲花)。数日後に彼の元を訪れた刑事は、川辺市子は存在しないという。子ども時代も含めたさまざまな人物の回想と証言により、彼女を取り巻く環境や起こった出来事、そして彼女が起こしたことが明らかになっていく。
©2023 映画「市子」製作委員会
親の事情により戸籍がなく、なぜかある時から「月子」と名乗っていた市子。これでもかと畳み掛けてくるつらい環境に、観ているこちらもひたすら精神をえぐられる。
貧しかった市子は幼少期からやや倫理観に欠けているところがあり、本人の元々の性質もあったのかもしれないが、そうせざるを得ない環境だったということもある。どんな理由でもしてはいけないことはしてはいけないが、安全圏から石を投げることもできない。
©2023 映画「市子」製作委員会
高校生のとき、市子がある取り返しのつかないことをしてしまうシーンがある。その表情がない顔と、光のない真っ暗な目が忘れられない。まともではないところと、一人の人間として普通に生きたいと願い、生きようとしていたところと……総合して切ない気持ちになった。
何が起こったのか、含みを持たせるラストも相まって、モヤモヤは消えない。
▶︎『市子』を観る
共演者・制作陣から信頼される姿勢
主役として座長を務める彼女は、制作陣や共演者からの信頼も厚い。
「アンメット ある脳外科医の日記」での共演者のエピソードは先ほど挙げたが、『朽ちないサクラ』についても、彼女から自分の役ではない作品全体に関する的確な質問や、台本を事前に読み込んで現場には持ち込まないプロフェッショナルな姿勢があったという。
いずれの現場でも、彼女がいることで現場全体の士気が上がり、演技の素晴らしさに魅了されるという話が挙がった。
素晴らしい演技を観せてくれるだけでなく、作品全体を支える俳優となった杉咲花。少女時代から変わらない、もしかしたら増しているかもしれない可憐な印象の中に、さまざまな逆境にあっても折れない強さと、何をしでかすかわからない怖さを秘めている。
演技から滲み出るいい意味での“意外さ”が、観ている者の心に忘れられない跡を残す。
待機作では、坂元裕二オリジナル脚本で広瀬すず・清原果耶とトリプル出演を務める『片思い世界』に大きな期待が寄せられる。
彼女が今後どんな役で、どんな作品で私たちを驚かせ、心を揺さぶってくれるのか。ずっと観ていきたい、そう思わせてくれる人だ。
(文:ぐみ)
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