「虎に翼」寅子に噛みつかれてばかりで穂高がお気の毒<第69回>
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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第69回を紐解いていく。
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花束を渡さない
寅子(伊藤沙莉)は月にどれだけ甘味処に通っているんだ?いつもの竹もとで、寅子は桂場(松山ケンイチ)と久藤(沢村一樹)に穂高(小林薫)の退任記念祝賀会の手伝いを頼まれます。甘味は、頼み事の報酬なのでしょう。
そのときの桂場が「名誉なことだから君が喜ぶと思ったのだがな」と言ったあとのにんまりと含みのある顔。桂場はわかっている、寅子が名誉好きであることを。そして、その名誉欲(よりよい世の中を作った人として名を成す)が彼女をおかしな方向に導きます。
祝賀会の日、穂高は「出涸らし」としての自覚と、旧民法に異を唱え、御婦人たちや弱きもののために仕事をしてきたつもりだったが、足りていなかったかもしれないと。結局私は「雨だれ」の一雫に過ぎなかったと挨拶をしているのを聞いて、寅子は渡すはずの花束に涙をこぼし、花束を渡すことを拒否して会場を飛び出します。
追いかけてきた穂高に、あの日のことをゆるしてないと言います。
先生に雨だれの一滴なんて言ってほしくないとか女子部の我々に雨だれになることを強いて、歴史にも記録にも残らない雨だれを無数に生み出したとか、きついことを投げつけます。そして、「納得できない花束は渡さない」と名台詞ふうの啖呵を切ります。
怒りが収まらない寅子は、屋上で、うわーーーっと叫びます。
「雨だれ」問題は、寅子が妊娠したときから尾を引いています。いますぐに解決しないことを「雨だれ石を穿つ」と考え、時間をかけていくという考えに、寅子は、いまの自分の問題を言っているのだと反論しました。妊娠と仕事を両立させたいのにそれを諦めることを当たり前にされて心が折れたことを、いまだに根に持っているのです。
寅子の苛立ちもわかります。が、広く社会全体を俯瞰した話と、個人の話をごっちゃにしすぎている気がして……。そこはもうちょっと冷静に切り分けてもいいのではないでしょうか。
星長官(平田満)のことは全面的に尊敬し、穂高をひたすら敵視している理由を考えてみると、星の書籍が好きなのと、自分を褒めてもらい、本に名前を載せてもらい、名誉欲をくすぐられたこと。一方、穂高は、ちっとも褒めてくれずにいつも心が折れること(諦めさせるようなこと)ばかり言う。そういう寅子の気持ちを察して、桂場は「名誉なことだから」とじゃっかん嫌味も込めて言ったように思えるのです。
あの場で、穂高が寅子を、たとえば穂高の功績として女性判事がこのように誕生したと持ち上げてくれたら良かったのに、穂高はそういうことをしない人のようで。じつは真にフラットな人なんじゃないかという気もします。
寅子のように、ああいう場で皆が見ているなか出ていってしまうのは、自己顕示欲の現れで、構ってちゃんなので、ほんとうに優秀な人はやらない、あるいは、やるなら狙いをもってのことでしょう。寅子は完璧ではない、発展途上の人物なのです。
ただ、前にも書きましたが、このドラマは、ひどく心をざわつかせてから、そうでもなかったと収束させるのが特性なので、穂高とのこともきっと解決するのでしょう。なぜなら、家事部と少年部の諍いに、多岐川(滝藤賢一)が理想と理想のぶつかりあいなのだと寅子に説いていたからです。
寅子にも理想があり、穂高にも理想がある。
小林薫さんが、穂高を弱々しく、そして少し滑稽に(ああ〜、はあ〜と呆れるところ)演じながら、でも上品さや知性を残していて、すてきでした。
(文:木俣冬)
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