昭和の銀幕に美しく、そして強く咲き誇った女優・岩下志麻。
その凛とした佇まいと、芯の強い女性像を映し出す存在感は、時代を超えて今なお多くの映画ファンを魅了し続けています。
この記事では、1960〜1980年代を中心に、岩下志麻の圧倒的な演技が際立つ名作映画5作品をご紹介します。
それぞれの作品で彼女がどのような役を演じ、どんな魅力を放ったのかを、丁寧に振り返っていきましょう。
『秋刀魚の味』(1962年/監督:小津安二郎)

(C)1962/2013 松竹株式会社
小津安二郎監督の遺作としても知られる名作『秋刀魚の味』。
物語は、妻を亡くした中年男性・平山周平が、成長した娘・路子の結婚を通して、老いと孤独に直面する姿を描きます。
岩下志麻が演じるのは、その娘・路子。24歳で、家事を一手に引き受ける芯のある若い女性です。
父と弟の世話をする一方で、自らの将来に対する戸惑いや葛藤も抱えているという複雑な感情を、岩下は繊細な演技で丁寧に表現。
特に、見合い話に揺れる彼女の姿は、静かながらも確かな強さと気品を感じさせます。
彼女が初めて映画に登場する冒頭のシーンから、すでに岩下志麻という女優の存在感が確立されていることがわかります。
(C)1962/2013 松竹株式会社

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『古都』(1963年/監督:中村登)

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川端康成の同名小説を原作にした本作で、岩下志麻は一人二役という難役に挑戦しています。
舞台は京都。
京呉服問屋の一人娘として育った千重子と、北山杉の村で育った苗子──生き別れた双子の姉妹が再会し、それぞれの生き方を模索していく感動の物語です。
岩下は、教養と礼儀を身に付けた上品な千重子と、自然と共に暮らす素朴で芯のある苗子というまったく違う性格の女性を見事に演じ分けています。
日本映画の中でも最も美しい姉妹像の一つともいえる本作で、彼女は“女性の内面の二面性”を見事に体現。
舞台となる京都の四季の美しさとともに、岩下の演技が際立つ作品です。

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『内海の輪』(1971年/監督:斎藤耕一)

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松本清張原作のミステリードラマ『内海の輪』では、岩下志麻は、愛と執着の狭間で揺れる女性・美奈子を演じます。
物語は、考古学者と不倫関係にある美奈子が妊娠し、相手の冷酷な決断により運命を狂わされていく愛憎劇。
美奈子という女性は、年上でありながら強く、そして脆い。
岩下はその危ういバランスを絶妙に表現しています。
とりわけ、雪に包まれた山中での感情の爆発シーンは、観る者の胸に強烈に残ります。
感情の振れ幅が大きい役でありながら、岩下の演技には一貫した品と力強さが宿っています。

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『この子の七つのお祝いに』(1982年/監督:増村保造)

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復讐劇と家族の悲劇が交錯する衝撃作『この子の七つのお祝いに』。
岩下志麻が演じるのは、幼い頃に母から復讐を教え込まれた女性・倉田ゆき子。
その過去と狂気が明かされていく物語は、観る者の想像を遥かに超えた展開へと進んでいきます。
ゆき子というキャラクターは、育ての母の執念と愛情によって形作られた“復讐の申し子”。
岩下はその狂気をまといつつも、どこか悲しみを背負った瞳で演じ切ります。
観る者は、彼女が犯した罪よりも、そこに至るまでの哀しみに心を動かされずにはいられません。
増村監督の演出とも相まって、岩下志麻の怪演が深く印象に残る一作です。
(C)1982 松竹株式会社

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『聖女伝説』(1985年/監督:村川透)
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ハードボイルドの世界で、妖艶で危険な女を演じた『聖女伝説』。
銀座の高級クラブを経営する女主人・市川多恵子を演じる岩下志麻は、裏社会の男たちを操り、自らの欲望を貫く女の情念と策略を見事に体現しています。
岩下演じる多恵子は、妖艶さと母性、冷酷さと包容力をあわせ持つ女。
決して表情を大きく変えるわけではないのに、視線と立ち居振る舞いだけで相手を支配していくその演技は、まさに“圧倒的”。
時代に翻弄されながらも生き抜く女性像が、ここでも見事に浮かび上がります。
(C)1985松竹株式会社

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おわりに──時代を超えて咲き誇る、岩下志麻の女優魂
今回ご紹介した5作品は、いずれも岩下志麻という女優が放つ多面性──優しさ、強さ、妖艶さ、哀しさを、存分に堪能できる作品ばかりです。
昭和の時代を生きる女性の姿を通して、今を生きる私たちにも問いを投げかけてくれる彼女の演技は、何年経っても色あせません。
ぜひ、この機会に再び、あるいは初めて、岩下志麻の名作に触れてみてください。
その静かな情熱と、深く揺れる感情に、きっと心を奪われるはずです。
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『秋刀魚の味』
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『この子の七つのお祝いに』
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『聖女伝説』
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