『鈴木家の嘘』製作チームが2015年に発した傑作『恋人たち』とは?

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(C)松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ 

長男の死にショックを受けて記憶を失った母のため、彼は今アルゼンチンで働いているというウソを家族ぐるみで突き通すという、一見コミカルな中にヒューマンな慈愛を忍ばせた必見の快作『鈴木家の嘘』が現在公開中です。

本作の野尻克己監督は、さまざまな現場の助監督やTV、OVの監督を経て、本作で見事に映画デビューを果たし、今後の活動が楽しみな逸材です。

そんな野尻監督がかつて助監督として就き、クリエイターとして大いに影響を受けたと思しき作品を今回ご紹介したいと思います。

橋口亮輔監督の2015年度作品『恋人たち』です。

3つの哀しく報われない
愛のエピソード

映画『恋人たち』は、大きく3つのエピソードを同時進行で描いていきます。

ひとつは、橋梁コンクリート点検の仕事に従事するアツシ(篠原篤)。数年前に最愛の妻を通り魔殺人で亡くし、今なおその心の傷を癒すことができず、同時に犯人への憎しみを払拭できずにいる彼は……。

もうひとつは、長い結婚生活にお互い疲れ、もはや自分に関心もない夫と、始終ソリの合わない姑と3人で退屈な日々を過ごしていた瞳子(成嶋瞳子)。ある日、彼女は一人の中年男と知り合い、親しくなっていくのですが……。

最後に完璧主義者のエリート弁護士・四ノ宮(池田良)。一緒に暮らす恋人がいながらも、実は同性愛者である彼は、学生時代からひそかに想い続ける男友達がいるのですが……。

この3人のエピソードはときたまリンクすることもあるのですが、基本的には別個のオムニバス的なものと捉えながら見据えておいたほうが懸命かもしれません。

もっとも、愛妻を亡くした男の哀しみ、愛のある生活を求めて不倫に走る主婦、同性の親友を好きになってしまった男のジレンマ……と三者三様の心の渇望はそれぞれ苦しみとも絶望ともつかないものへ導かれていきます。

『恋人たち』という、一見ロマンティックなタイトルとは裏腹に、現実がいかに愛に対してシビアなものであるか、しかしそれでも人は生き続けていかなければならない悲しみや切なさを本作は真摯に訴えかけていくのです。

現代日本インディーズの
実力を知らしめる傑作

橋口亮輔監督は1993年の長編デビュー作『二十才の微熱』のころから自分がゲイであることを公表しており、そうしたものに対する差別や偏見などから目を背けず対峙した作品を一貫して作り続けています。

そんな彼のワークショップに参加していた篠原篤、成嶋瞳子、池田良の3人をオーディションで選抜して撮った作品が、この『恋人たち』でした。

本作は2015年度(第89回)キネマ旬報ベスト・テン第1位および監督・脚本・新人男優賞(篠原篤)をはじめ、その年の映画賞を多数受賞。メジャーではなかなか実現させづらい企画を見事に具現化し得た現代日本のインディーズ映画の実力を改めて世に知らしめる結果にもなりました。

またこのときのプロデューサー深田誠剛&小野仁史は第35回藤本賞や日本映画プロフェッショナル大賞新進プロデューサー賞を受賞していますが、その彼らが新たに取り組んだ作品が『鈴木家の嘘』であることも特筆しておいていいでしょう。

作品のテイストこそ違えども、根本のヒューマニズムはまったく変わらず、いわゆる『恋人たち』イズムは今なお脈々と新しく再生し続けているようです。

今ならば劇場で『鈴木家の嘘』を見て、配信などのモニターで『恋人たち』を見る。順番は逆でも可。

ぜひ双方の作品を通して、家族や恋人たちの“愛”を体感してみてください。

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(文:増當竜也)

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ライタープロフィール

増當竜也

増當竜也

増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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