「マイマイ新子と千年の魔法」が新ピカに帰ってきた!!

■「役に立たない映画の話」

 目下「この世界の片隅に」が全国でヒットしている片渕須直監督の前作「マイマイ新子と千年の魔法」が、1月8日に新宿ピカデリー・スクリーン6(232席)で特別上映された。この作品は2009年11月21日より新宿ピカデリーを中心に全国38スクリーンで公開されたが、興行成果は今ひとつで新宿ピカデリーでは27日間で上映を終了している。つまり「マイマイ新子」にとって新宿ピカデリーは故郷とも言うべき場所で、そのスクリーンに1回だけとはいえ凱旋を果たしたこの上映会。チケットを売りだした所1時間半で売り切れとなり、場内は満席。舞台挨拶に立った片渕須直監督は、公開時に宣伝プロデューサーを務めた山本和宏と共に、公開当時のことや「この世界の片隅に」との関連などを大いに語った。

「監督の仕事は、映画を作って終わりじゃないんです」

 「マイマイ新子と千年の魔法」が公開されてから、もう7年とちょっと経ちます。2009年11月21日の初日、この新宿ピカデリーで舞台挨拶したことを覚えています。あの時は、何番スクリーンだったかな?確かスクリーン3かな。色々な想い出のある映画館です。

 公開された当初はお客さんが入りませんでした。でもちょうどその頃、Twitterでつぶやくことで作品の評判が高まり、最終日は木曜日でしたが、その初回をちゃんと切符を買って見に行ったら座席の9割が埋まっていて、朝の9時だというのにネクタイ姿のサラリーマンがいたり(笑)。そういったことをTwitterで話しかけたりしました。

 上映が終わってから山本さん達と『ねぎし』でランチを食べながら、ラピュタ阿佐ヶ谷で行われるレイトショーの作戦会議をし、その後すぐに世界堂に飛び込みました。これはラピュタ阿佐ヶ谷の上映に来てくれるお客さんたちに配るアートカードを作成するための紙を買うためで、さらにラピュタでは9日間連続で舞台挨拶を行いました。そうしたらお客さんが来てくれるようになりました。

 監督は映画を作って終わりじゃないんですね。お客さんひとりひとりと会話をすることが大切だということ。今、『この世界の片隅に』が凄い興行成績を上げていますけど、その始めは『マイマイ新子』上映の際の、この新宿ピカデリーでの体験にあったのです」

「『マイマイ新子と千年の魔法』と『この世界の片隅に』は、姉妹のような関係なのです」

 「『マイマイ新子と千年の魔法』に登場する、新子の母・長子のモデルは、セーラー服を着た中学生の人形があって、それがとてもリアルで、その写真を長子にしました。当時長子は29歳。新子を8月15日以前に身ごもっています。戦時中に新子は、母親のお腹にいたのですね。ほわほわしたイメージの長子さんですが、当時彼女ももんぺをはいて、防空壕に入ったりしたんです。10年時代を遡ったならば、彼女もまったく違う人生を送っていたかも知れません。それを『マイマイ新子』の次にやったら面白いと思っていた時、こうの史代さんの『この世界の片隅に』と出会いました。

 『マイマイ新子』の舞台である山口県防府市と『この世界の片隅に』の広島県呉は隣同士で、どこから見ても山があって、街の大きさもほぼ同じ。でも呉の人口は防府の4倍。これは海軍の拠点があったからです。とにかく映画の中身といい、土地の近さといい、『マイマイ新子と千年の魔法』と『この世界の片隅に』は、姉妹のような関係にあるのです」

松竹大英断。DCP作成。20日には新ピカ最大座席数で上映。

 舞台挨拶の最後には、今回の上映会の反響を受けて、松竹が新たに「マイマイ新子と千年の魔法」のDCPを作成したことが明らかになった。DCPとはフィルムに代わって、デジタル化が行われた映画館で使用されている上映素材である。「マイマイ新子」は公開時と昨年9月のユーロスペース上映時にはフィルムが、今回の新ピカでの上映はブルーレイが使われたが、DCPを新規作成したことで上映が可能となる映画館の数は飛躍的に拡大することになる。7年前に上映を終了した作品が、こうした形で新しい上映素材が作られるのは、極めて異例なこと。

 またそのDCPを使った「マイマイ新子」上映会が、1月20日に再び新宿ピカデリーで開催されることも発表された。しかもこの日は新宿ピカデリー最大の座席数580席を誇るスクリーン1での上映。これにはさすがの片渕監督も驚いたようで「580席って・・・公開された時より大きなスクリーンじゃないですか!!」と唖然。

 「この世界の片隅に」への評価の高さと連動し、興行的には不遇であった前作が改めて陽の目を見、そして配給会社も営業体制を新たに整えた。多くの映画が上映すると同時に忘れ去られることが多い中、こうした試みは快挙であると言える。

 なお20日に開催される「マイマイ新子と千年の魔法」上映会のチケットは、10日18時より新宿ピカデリー・オフィシャルサイトで販売が開始される。

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(取材・文:斉藤守彦)


    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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