戦争で奪われた美術品奪還に命を懸けた 男たちの『ミケランジェロ・プロジェクト』

インテリジェンスにあふれた
今の時代ならではの戦争映画

これほどのキャストを布陣していながら、日本での劇場公開が遅れたのは、やはり第2次世界大戦を舞台にしておきながら、どこか地味な印象を抱かせてしまうからでしょう。
確かに壮大な戦車バトルを描いた『フューリー』みたいなものとは昂揚感の点では見劣りするものはあるでしょう。

しかし、戦争という殺戮の場の中であくまでも芸術文化のために戦った、いや行動した男たちこそ、今はスポットを当てるにふさわしい時代ではないでしょうか。

戦争映画には、どんなに反戦を訴えても、戦闘シーンの昂揚感がそれを阻害してしまうという弱点がつきまとうものですが、本作はそういった要素を最小限に抑えることにより、戦争の惨禍を盗まれ破壊されていく美術品をもって訴えることに成功しています。

この題材を選んだジョージ・クルーニーのインテリジェンスに感服すると同時に、派手さこそないものの着実に戦争の悲劇を醸し出す秀逸な演出センスにも脱帽します。

繰り返しますが、モニュメンツ・メンの彼らは戦うのではなく、あくまでも美術品奪還と保護のために行動し続けました。
悲しいかな、全ての美術品は戻ってきませんでしたが(ヒトラーは何と、ドイツ敗北の際はすべてを破壊するネロ指令を発令していたのです)、彼らによって無事取り戻されたものも多数ある。

そして、あまりネタバレはしたくありませんが、モニュメンツ・メンのメンバー全員が、無事帰還できたわけではありません。
こういった点も隠さず描くことで、本作はヒロイックでありながらも戦争が地獄であることも訴え得ていると思います。
戦争さえなければ、彼らはそれぞれオタッキーな美術研究者としての人生を飄々と過ごしていたことでしょう。
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今、こういった視線から戦争を見据えることは、非常に意義があると思っています。
愛する者のために敵と戦う勇ましさも結構ですが、それ以前に戦争さえなければ、そんな苦労もしなくて済むし、相手を憎むこともないし、映画でもアニメでもスポーツでも、とかくオタッキーなものをことごとく戦争は奪っていくことでしょう。

そうならないためにはどうしたらいいのか?

かつて『男たちの大和/YAMATO』(05)の佐藤純彌監督は、記者会見の際に司会者から「戦争が起きたらあなたは戦場へいきますか?」といった質問が出席者全員になされたとき、「そんなことよりも、戦争が起きないようにするにはどうしたらいいのかを、みんなで考えるべきでしょう」と即答しました。

『ミケランジェロ・プロジェクト』を見ながら、そのことを思い出してしまいました。

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(文:増當竜也)

公式サイト http://miche-project.com/

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画レビュー・コーナー『戯画日誌』を連載中。近著に『映画よ憤怒の河を渉れ 映画監督佐藤純彌』(DU BOOKS刊)がある。

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