スペシャル対談:『リップヴァンウィンクルの花嫁』岩井俊二監督インタビュー<中編>



八雲
以前、日本映画専門チャンネルのCMで起用なさってるんですよね。

岩井
はい、その当時「マイリトル映画祭」という番組をやってて。
いろんな監督に話を聞いたり、僕の好きな映画を紹介したりする番組だったんですけど、そのアシスタントの一人として、オーディションで見つけたんですね。
その時に、番組アシスタントとCM出演がセットになってて、それで初めて一緒に仕事をしました。
今回の役どころはどちらかと言うと受け身の立場で、彼女が持ち合わせている演技力がガーンと前面に出てくる役ではないんですよね。
むしろ真白とか安室とか、周囲の人がどんどん前に出てくるのを受けていく立場なので、撮影していると、七海の見せ場らしいものがなくシーンが終わっていくことも多いんですよ。
「なんにもしない」って言うのも変な話なんですけどね。
主役なんだけど、いちばん芝居をしているのは別の人たち。
結構、(黒木さんにとっては)過酷な撮影だったんじゃないかと思うんですよね。

八雲
受け身のお芝居って、役者さんによってはすごくしんどいと仰る方もいらっしゃいますものね。

 

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岩井
脇で囲んでいるのと違って、主演を背負わされて受け身の芝居を続けるのは、なかなかじれったいところがあると思うんですよね。
計算が立たないというか…。僕も計算が立たないし…。

八雲
監督もそうなんですか?

岩井
うん。主役が演じるポイントがない映画って本当にコントロールしづらい。
でも僕の場合、結構そういう映画が多くて…。
『四月物語』の松たか子さんなんかもそうでしたけど、一日中松さんが自転車乗ってたり歩いたりしてるシーンばっかり撮っているような映画で。
なんか見せ場がないっていうか…(笑)。

八雲
(笑)。

岩井
あと『リリイ・シュシュのすべて』の市原隼人君もそうでしたね。
撮ってると、どういう映画撮ってるのかだんだん分かんなくなってくるんですよ。

八雲
振り返ってみると、確かに多いですね(笑)。主役が俯瞰で物事を見ているというか…。

岩井
うん、どうしても主役ってのはそういうもので。
主役というのは、お客さんが見る対象物じゃないんですよね。
お客さんはその主役越しに映画の世界を見ているので。
だからどうしても、受け身に回らざるを得ないときが多いんです。
しかもこの『リップヴァンウィンクルの花嫁』の場合、特にその傾向が強くて…。
そう考えると、(黒木さんは)メンタルが強かった。
途中で不安になったりすることも、きっとあったと思うんですよ。
でもそこは(自分を)信頼してくれたんだろうなと。
自分でも「大丈夫だから」と言いつつ、なんの確証もなかったんですけどね。

八雲
まぁ、映画が完成しないことには…。

岩井
実感がないんですよ、監督ですら(笑)。
「大丈夫大丈夫…」って思いながらやってるんだけど、本当に何も撮ってないからね。
七海のリアクションだけ撮って終わり、みたいな感じ。
素材が何もなくて、こっちが不安になるっていうか…。

八雲 そうか…。

岩井
でも、それを確実に積み上げていったらこの映画になるわけだから。
本編がつながってみたら、誰がどう見たって黒木華しか見えて来ないっていう…。

八雲
そうなんですよね。その存在感たるや、本当に素晴らしいですよね。

岩井
俺が信じてやってて良かったって思ったぐらい(笑)。

八雲
(笑)

岩井
彼女は本当に僕を信じてやってくれてたんだなって。すごい信頼関係の中でやれたなと、いまでは思っています。

 




 

つづく…。

次回は、岩井俊二監督が本作を通じて描きたがった“現代の日本の姿”とは…。

スペシャル対談:『リップヴァンウィンクルの花嫁』岩井俊二監督インタビュー<前編>

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リップヴァンウィンクルの花嫁
全国公開中
監督・脚本:岩井俊二
出演:黒木 華、綾野 剛、Cocco、原日出子、地曵 豪、毬谷友子、和田聰宏、佐生有語、夏目ナナ、金田明夫、りりィ ほか
原作:岩井俊二『リップヴァンウィンクルの花嫁』(文藝春秋刊)
©RVWフィルムパートナース


 

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岩井俊二プロフィール
1963年生まれ。1988年よりドラマやミュージックビデオ、CF等多方面の映像世界で活動を続け、その独特な映像は“岩井美学”と称され注目を浴びる。
映画監督・小説家・作曲家など活動は多彩。
監督作品は『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』(93)『Love Letter』(95)『スワロウテイル』(96)『四月物語』(98)『リリイ・シュシュのすべて』(01)『花とアリス』(04)
海外にも活動を広げ、『New York, I Love You(3rd episode)』(09)『ヴァンパイア』(12)を監督。
2012年復興支援ソング「花は咲く」の作詞を手がける。
2015年2月に長編アニメーション『花とアリス殺人事件』が公開し、国内外で高い評価を受ける。


 

八雲ふみね fumine yakumo


八雲ふみね

大阪市出身。映画コメンテーター・エッセイスト。
映画に特化した番組を中心に、レギュラーパーソナリティ経験多数。
機転の利いたテンポあるトークが好評で、映画関連イベントを中心に司会者としてもおなじみ。
「シネマズ by 松竹」では、ティーチイン試写会シリーズのナビゲーターも務めている。

八雲ふみね公式サイト yakumox.com

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