映画コラム

REGULAR

2016年05月24日

洋画の「買い付け」はどのように行われているのか?担当者にインタビューをしてみた!

洋画の「買い付け」はどのように行われているのか?担当者にインタビューをしてみた!



 

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ー これまで買い付けた作品の中で、特に記憶に残っているものを教えて頂けますか?

小山:自分で初めて脚本から探して来て「これはイケる!」と選んだ、「死ぬまでにしたい10のこと」という作品です。「アイ・アム・サム」の直後だったんですけど、色々と送られてくる脚本の中から、この話は泣けるし、わかりやすいし、いい!と自分で選びました。会社の先輩たちの後押しもあって買い付けすることができて、ヒットにつながりました。いい作品にいいタイミングで出会えたな、と感じますね。

ー ご自身の主観で「これがいい」と選ぶことに対してプレッシャーはありませんか?

小山:年々感じるようになってきています。年を重ねて来ているので、20代の方たちが何を観たいのか、という感覚がわからなくなってきていますしね。必ずしも自分が20代の時に観たかったものを、今の20代の方が観たいとは限りません。やはり買付は、ある程度の年齢になったら世代交代した方がいいな、と思いますね。そうでないと、40代、50代、60代の方に合うものしか買えなくなってしまいます。映画は大ヒットするためには若い方たちに劇場に観に来ていただかないとダメなんです。ただでさえ洋画を若い方たちに観に来てもらうのは難しい状況の中、自分の感性で買っていたら上の世代に向けたものに偏りがちなのが危惧している点です。

ー若い世代をトレーニングして、買い付けをどんどんしてもらいたい、という思いはありますか?

小山:私としては20代の方たちにどんどんやってもらいたい、という思いはあります。ただ、最近は洋画の買付をしたい新入社員が昔に比べて少なくなったと感じます。「邦画の制作をしたい」とか「宣伝をしたい」とか「歌舞伎をしたい」という方は多いのですが。やりたい、と思ってくれる方がもっといたらいいのにな、と思いますね。

ー でも、もうすぐ小山さんが行かれるカンヌもそうですが、国際映画祭などでのお仕事は特に華やかで、買い付けのお仕事に興味を持つ方もたくさんいそうですけれど。

小山:例えばカンヌでいうと、真っ青な海と綺麗な海岸で日光浴をしているマダムの姿を「うらやましいな〜」と横目で見ながら、その前の通りを行ったり来たりして朝から晩まで働いているのが私たちの実状なんです。朝の10時から夕方の6時頃まで、30分刻みでミーティングがびっちり詰まっていて商談を続けます。私は買う側なので、それぞれのセールス会社のブースに行き、色々な作品を写真や映像と共に紹介されて、「これは良い、これはダメ」と言うようなやり取りを少なくとも5日間くらいずっと続けます。朝は朝食を兼ねた社内ミーティングで、前日に会った会社とのミーティング内容を報告し合い、夜はビジネスディナーで外国のセールス会社の方や日本から来ている他の配給会社の方と情報交換をしたりと、1人になる時間がありません。

ー かなりハードそうですね。映画祭はお一人で行かれるんですか?

小山:現在買付チームは3人なのでそのメンバーと、必要に応じて役員や宣伝部、劇場の担当者などと一緒に行きます。私はずっとミーティングに入っていて試写をすることがあまりできないので、試写要員として他部署のメンバーに動いてもらったり、現地では手分けをしています。

ー 映画祭では作品数は何本くらいの中から検討するんでしょうか?

小山:何本だろう…ものすごい数だから考えたこともないですね。笑 1つの会社から紹介される作品は、3本とか5本とかあるのですが、私たちが買いたいジャンルと違うもの、たとえばホラー映画やアクション映画なども沢山紹介されるので、要らない情報で頭の中のキャパシティを使わない為に随時省くよう心がけてます。笑

ー ピカデリーのプライムレーベルで流すためにも、そういった女性ターゲットの作品をメインで買い付けをしてらっしゃるんですか?

小山:そうですね。ピカデリーのプライムレーベル(PPL)はターゲットがはっきりしているので、そこに定期的に供給する作品の内容は、意識しています。シルベスター・スタローンの映画を買ってきても、PPLにはハマりませんからね。笑

ー 「いいな」と思った作品の値段はどのように決まっていくのでしょうか?

小山:実際に値段の交渉も私がやります。セラーが要求する金額が予算に見合わなければ買えないので、「◯◯◯という理由から、この作品の日本での価値はこれくらいなので、こちらとしては◯◯◯円しか出せません」と交渉していきます。

ー その交渉はだいたいこちらの要望が通るものなんですか?

小山:いえ、なかなか通らないですね。誰もその映画を欲しがらなければ金額は下がっていきますが、みんなが欲しがる作品であれば当然値段はどんどん吊り上ります。
マーケットで初披露の新作にセラーがつけた言い値に対し、こちらがその半分くらいの価値なんじゃない?と思っていたとしても、そのマーケットでは半額に下がることはまずない。でも、数カ月後の次のマーケットまで買い手がつかなければ、セラーも作品の価値を見直し値段を下げます。欲しい作品でも値段が高い場合は、じっと我慢して下がるのを待ち、例えば半年後に買う、というようなこともあります。

ー それでは国際映画祭は、映画を買い付ける、というだけではなく、欲しい作品に目星を付けておく、ということも重要な目的なんですね。

小山:そうなんです。「ここで買わないと売れちゃうな」、という時はその場で買う必要が出てきますが、映画祭(厳密にはそれに併設されたマーケット)に合わせて各社新しい作品を持ってくるので、その情報を収集するのも大きな目的の一つです。
マーケットの時はみんな買うつもりで来ているので、「マーケットフィーバー」と呼ばれるものがあり、熱に浮かされたように買わないといけない気持ちになってしまいがちです。それをちょっと抑え、もう少し考えてみよう、と思って日本に帰ってくると「やっぱりそこまで欲しい映画ではなかったかな」と思い始めたりするものです。ここ数年は、1つのマーケットで1本くらいのペースで買付をしています。

ー「素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店」はどのように出会われて買った作品なんですか?

小山:これはオランダ映画なのですが、アメリカのセールス会社が販売していました。松竹とは長い付き合いの会社で、10年くらい前に「トランスアメリカ」という作品を私たちが買ったのが始まりです。その数年後に、今度は先方が「おくりびと」の海外配給権をまとめて買ってくれました。そしてラテンアメリカやヨーロッパの国に対し、「おくりびと」を丁寧に売ってくれたんです。お互いにセラーでもあり客でもある関係を築いている、数少ない会社です。毎回マーケットに行くたびにその会社とはミーティングしてたのですが、そんな中「これは絶対に面白いコンセプトだから」と、紹介されたのが「素敵なサプライズ」でした。

内容を聞くと、テーマが「あの世への旅のお手伝い」ということで、「外国版『おくりびと』みたい」と思いました。先方も同じ理由で「この作品は絶対松竹がやるべき」と薦めてくれました。

私自身、英語以外の外国語映画を買い付けるのは初めてで、出演者はみな無名だし、ほとんど注目する要素がない中、色々な意味の偶然に縁を感じたのでしょう。映像を見ると、クオリティが高くて素敵だったしコンセプトも面白いので、これはイケるかも!、と、脚本も読んでないのにメンバーにピッチをして、勢いで買っちゃいました。久しぶりに、勢いが出ましたね。笑

出来上がりを観たら、誰もが楽しく気持ち良く観られる作品だったのでとても気に入っています。

ー 今回は原題が「The Surprise」で、邦題が「素敵なサプライズ」となっていますが、邦題を付ける時はどのような流れで決まっているのでしょうか?

小山:邦題を決めるのって、一番大変な作業だと毎回思うんです。宣伝プロデューサーを中心に、作品に関わる人が集まって、思いついたタイトルを何十個も出し合って決めます。何も知らない人にいくつかのサンプルを見せて、どれが一番反応が良いかを調査することもあります。「サプライズ」に関しては、何年か前に同じタイトルのホラー映画もあったし、ただカタカナで「ザ サプライズ」とするのは絶対に嫌だったんですよね。映画の内容が誤解されることも避けたかったし、「観て気持ちの良い映画」、と認識されるタイトルにしたいと思いました。更に内容を伝えたいと思い、「ブリュッセルの奇妙な代理店」という少し説明になる副題をつけました。とは言え、最重要なのはメインタイトルなので「素敵なサプライズ」に決めるまでには迷いもありましたね。

通常邦題の決定は最終的には宣伝プロデューサーに任せています。前出の「死ぬまでにしたい10のこと」の場合も、最初は私、この邦題が嫌だったんです(笑)。原題の「My life without me」がすごく内容にあっていると思っていたので、そのニュアンスがなくなってしまったタイトルが嫌だった。でも、「死ぬ」というショッキングな言葉をタイトルに入れる事でまずは関心を持ってもらい、「10のことをする」内容を分りやすく説明できるタイトルだ、と説明され、なるほどと思って納得しました。結果、あの邦題だからこそのヒットだったと思うし、「宣伝プロデューサーってすごいな」って思いましたね。笑

ー ホームページなども、宣伝部の方々が作りこんでいくんでしょうか?
http://sutekinasurprise.jp

小山:そうですね。宣伝プロデューサーの考える方向性をベースに、このページにはこういう要素が入っていれば面白いし興味を持ってもらえる、という風に考えて作りこんでいきます。

ー 作りこんでいく際には買い付けをした小山さんにも確認がされていくんでしょうか?

小山:はい。邦題からポスタービジュアル、キャッチコピー、予告編など、何を作るにも海外の権利元に許諾を取る必要があって、OKをもらえないと世に出せないんですね。コンセプトの説明や交渉も全て私がやるので、まずは私が理解して納得していないと権利元を説得できません。ですので、ホームページを作りこむ際にも、宣伝プロデューサーの意向は細かく説明を受けます。
「買い付け」とは言え、最初から最後まで関わることになるので、自分が買い付けた作品は、自分の子どもみたいなものです。

ー とてもお忙しいと思うのですが、プライベートでも映画を観る時間はありますか?

小山:以前に比べるとかなり劇場に足を運ぶことは減りました。最後に観たのは、3月に見た「リリーの全て」かな。本当はもっともっと観ないといけないんですけどね。

ー 難しいかもしれませんが、1番好きな映画は?と聞かれたらなんと答えますか?

小山:劇場に何度も足を運んだ映画、というのが1本だけあって、「トーチソング・トリロジー 」という作品です。高校生の時、一ヶ月に映画館に3回観に行ったのを覚えています。ただ、今一番好きか、と言われると難しいし、3回観に行って以来は観てないです。でもものすごく影響を受けた作品、ということは間違いないですね。
あとは、中学校1年の時に劇場で観た「スタンド・バイ・ミー」も、同じ世代の子どもたちの映画としてすごく感動したのは覚えています。映画館に行き始めたのが中学1年生頃で、中高生の頃は映画にだけお小遣いを使っていた気がします。

ー 買い付けをするようになって、映画の見方は変わりましたか?

小山:そうですね。映画を見に行くたびに、どのような客層が見に来ているかとか、劇場の大きさに対するお客様の数とか、作品自体を楽しむというより気になることが増えたというのもあります。

ー 買い付けをする時に心掛けていることはありますか?

小山:内容を率直に伝えられる作品を買いたいと思っています。洋画の宣伝の中には、たとえば本当は歴史ものなのに恋愛ものに見せかけていたりとか、ちょっと「騙し」が入っているものもあると思うのですが、騙されて嬉しいお客さんはいませんよね。それが洋画離れに繋がる恐れもあります。映画の本質をそのままに売るのが理想なので、売るのが難しいものは買わないようにしていますね。

ー 最後に改めて「素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店」について伺ってもよろしいですか?

小山:「素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店」は誰もが気持よく観られる映画です。ホームページやチラシの雰囲気を見て、「観たいな」と思って頂いた方には満足して頂ける作品だと思います。

ちなみに、今回「素敵なサプライズ」版マナーCMを制作して、ヒューマントラスト有楽町と新宿ピカデリーでかけて頂いているのですが、その出来が秀逸なので、よかったらチェックしてください!



笑えて泣けて心温まる映画、「素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店」は5月28日 (土)公開です。是非劇場に足を運んでみてください。

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(取材・文:hosohana

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