実写映画版『シンデレラ』が玉の輿に乗らなくなった理由
4:黒人のキャラが登場することも現代ならでは?
2015年版の『シンデレラ』が、現代の世相を踏まえていると思わせることは他にもあります。
その1つが、王国に仕える兵士に黒人の男性がいること(もちろんディズニーアニメ版には登場していません)。劇中の時代設定は明らかにされていませんが、衣装は19世紀から1940年代の服からインスピレーションを受けたとのことですので、19世紀後半と考えていいでしょう。当時はまだ黒人差別が残っていた時代であるので、黒人の彼が白人の王に仕え、大尉の地位に就いているというのはなかなか考えられることではありません。
これは、作品の中でみだりに人種差別をしないということ、多様性を訴える作品を世に出したいという、ディズニーからの想いの表れでしょう。この黒人の男性が「舞踏会で誰を呼んでも私はかまいません、楽しければいいです」と“人を選ばない”発言をしていたこと、クライマックスでとある重要なことを提言するのも大好きでした。
シンデレラが、当時の社交界で共通言語として使われていたフランス語を話せていたり、乗馬を難なくこなせていることも、文武両道な教養を身につけることが重要視されている現代ならではの改変と言えるかもしれませんね。
なお、本日4月21日より公開となった実写映画版『美女と野獣』では、ゲイのキャラクターが登場し、ディズニー映画として初の同性愛のシーンが含まれているのだそうです。これも、正しい価値観や多様性を訴える、現代ならではの設定と言えるでしょう。
(C)2015 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
5:現代の結婚観や婚活にも通ずる痛烈なメッセージも?
本作で何よりも尊いのは、肩書や身分(社会的地位)ではなく、“ありのまま”のその人を見てあげよう、というメッセージがあることです。
王子は、初めて出会った時のシンデレラに自分の身分を教えず、あくまでキットという愛称で呼ばれる“見習い”として自分を見て欲しいと訴えているかのようでした。彼がそのようにシンデレラと接したのは、父である王が政略結婚に躍起になっていたり、今まで過剰なまでにちやほやされていたから。だからでこそ“ありのまま”の自分を見てくれる人を欲していたのでしょう。
シンデレラは、その王子が気にしていたような“見た目”や“お金”にはまったく興味がなく、目の前にいる人にとことん優しく、親切な女性でした。例えば、父が亡くなったという知らせの時でさえも、彼女は使いの者に「ありがとう。あなたも大変だったわね」とねぎらいの言葉をかけるのですから。
一方で、意地悪な義理の姉たちは、父が亡くなった時でさえも「お土産はないの?」と言っており、まま母も「それどころじゃないでしょ!これからどうやって生きていくのよ!」などと自分のことしか考えていなさそうでした。あまつさえ、義理の姉たちは舞踏会に行く前に「王子様と結婚できたらそれでいいの!考えが変わったらいやだから顔だって見ないわ!」などとも言っていました。
これらのキャラクターたちが明確に示している価値観は、現代の結婚観や婚活にも通ずる、痛烈なメッセージとも取れますよね。やれ年収、やれ学歴よりも、目の前の大切な人のことを見ておきたいものです。
(C)2015 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
おまけ.『アナ雪』とはまた違った“ありのまま”の大切さを知る作品だった!
そういえば、天井から吊られたブランコのような物に乗りながら絵を描いている男性が、「もっと下だ!いや下げすぎだ!」などと、うるさく注文をするというシーンがありました。
この男性はブランコから降りると、結局「これでちょうどいい角度だ、もっと長い筆をくれ」と言っており、それは“今の環境に文句を言うよりも、少しの工夫でもっと良い選択ができる”という皮肉に思えます。
シンデレラへの嫉妬心を抑えきれず、彼女を閉じ込めることしかできなかったまま母も、そういった“良い選択”ができなかった女性なのでしょう。その良い選択とは、相手の肩書や身分にこだわるのではなく、(シンデレラと王子がそうしたように)“ありのまま”のその人を見てあげること、または自分も“ありのまま”の姿を見せることで、簡単に行えるのかもしれません(もちろん、勇気も必要ですが)
また、“ありのまま”という言葉で『アナと雪の女王』を連想する方は多いでしょう。しかしながら、あれほどまでにその言葉が目立っていた『アナ雪』の物語の本質は、“ありのままでいいわけではなく、自分をコントロールすることも大切”ということでした。
一方で、2015年版の『シンデレラ』は、肩書や身分によらない、本当に“ありのまま”の人の素晴らしさを訴える作品になっているのです。ある意味では『アナ雪』で提示された“ありのまま”という言葉(テーマ)に、1つのアンサーを投げかけた作品とも言えるかもしれませんね。
参考文献
The Disney BOOK 誕生から未来まで ディズニーのすべて 講談社
ディズニーアニメーション大全集 講談社
ディズニー・ミステリー・ツアー 有馬哲夫著 講談社
■このライターの記事をもっと読みたい方は、こちら
(文:ヒナタカ)
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。