映画コラム
2017年の“良い意味で超イヤな気分になれる”映画ベスト10
2017年の“良い意味で超イヤな気分になれる”映画ベスト10
2017年も残りあとわずか。新年に向けて爽やかな気持ちになれる映画を観るのももちろん良いですが、時には無理をせずに“とことん暗い気持ちになってみる”ことも生きるためには必要です。ここでは2017年に公開された作品の中から、筆者が独断と偏見で選んだ“良い意味で超イヤな気分になれる”映画のベスト10を紹介します。
※昨年の“良い意味で超イヤな気分になれる”映画ベスト10はこちら↓
・2016年の“いい意味で超イヤな気分になれる”映画ベスト10
10位『アフターマス』
タイトルのaftermathの意味は“(災害などの)余波、結果”。本作は実在の飛行機の衝突事故を題材とした映画です。すさまじいのは“妻と娘が乗った飛行機で事故が起こり、生存者がほぼゼロであることを知った瞬間”。淡々と告げられるものの、その事実により不幸のどん底にまで追いやられてしまう……人生において、これ以上に体験したくないことはないでしょう。
主演はご存じアーノルド・シュワルツェネッガー。序盤にセクシーなシャワーシーンを披露したり、ぶつかった一般人に対して“こんなことシュワちゃんしか言わない”な感じの台詞を吐くのには笑ってしまいましたが、その後は良い意味で気持ちがどんよりするシーンしかなく、シュワちゃんの圧倒的筋肉もまったく役に立ちません。もう1人の主人公を演じたスクート・マクネイリーの演技も圧巻で、全編に渡って見応えのある作品に仕上がっていました。
9位『三度目の殺人』
(C)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ
過去の殺人事件について、証言が食い違いちがってしまう様をとてもイヤらしく描いた作品です。「ひょっとするとこういうことなのでは?」と思っても、「いやいや、ここではこう言っているから矛盾しているよ」などとなり、観客を良い意味でまったく安心させてくれません。
『そして父になる』からさらに深みを増した福山雅治の演技はもちろん、役所広司の言動ひとつひとつに神経を逆なでされ、広瀬すずの可憐さにも惑わされそうになってしまうなど、役者の力も存分に思い知らされる内容になっています。優しい物語も多く描いてきた是枝正和監督の、違った一面を見たいという方にもおすすめします。
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8位『光(大森立嗣監督)』
(C)三浦しをん/集英社・(C)2017『光』製作委員会
少年の頃に犯した罪について、25年の時を経て脅迫されてしまうという物語です。井浦新の“演じている役を演じる”役作りは圧巻、瑛太の笑い声だけでも嫌悪感でいっぱいになってしまうなど、こちらも実力派俳優の“イヤな演技”を堪能できる作品に仕上がっていました。
避けられない事件や災害に巻き込まれた人はどう生きれば良いか、また人間とは根本的にどういう性質を持っているかについて、哲学的な思考を巡らせることのできる内容です。観終わると、人生を共にするパートナーと真剣に話し合ってみたくなるでしょう。
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7位『ノクターナル・アニマルズ』
(C)Universal Pictures
アートディーラーとして活躍する女性の元に、元夫からの小説が届けられたことから始まる物語です。露悪的とも言えるオープニングのインパクトは並々ならぬもので、その後の“家族が暴漢に襲われてしまう”という小説の内容は良い意味で不快感でいっぱいになりました。
この小説が現実とどのようにリンクしていくか、どのような意味を持つかは、観る人によって解釈が異なるでしょう。現実と小説内の人物とで1人2役を演じたジェイク・ギレンホールの演技はもちろんのこと、アーロン・テイラー=ジョンソン演じる暴漢もすさまじい存在感を見せていました。
6位 『沈黙-サイレンス-』
(c) 2016 FM Films, LLC. All Rights Reserved.
遠藤周作の小説を原作とした映画です。かつての日本でキリスト教がここまで糾弾、排されてしまうという事実はもちろん、信者をあぶり出すための尋問や拷問の数々にもゲンナリとさせられました。“踏み絵”についても、学校の教科書では絶対に知り得ない鮮烈な印象を残すことでしょう。
画作りもさることながら、登場人物が「何かに負けてしまっても信念だけは揺るがない」というマーティン・スコセッシ監督らしい作家性が存分に表れていました。サスペンスとして一級品の完成度であり、2時間42分という長さを感じさせません。かなり刺激の強い内容ではありますが、多くの方に観てほしい1本です。
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5位『哭声/コクソン』
(C)2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION
リアリティ重視のサスペンスかと思いきや、途中からなんと『エクソシスト』的なオカルト方面に話が転換! その後も思いも寄らぬ情報の提示や驚きの展開の連続で、ずっと脳を揺さぶられ続けるような衝撃がありました。終盤の展開は人によって大きく解釈が分かれるので、一緒に観た人と話し合ってみると良いでしょう。
韓国映画ではありますが、國村隼が“異質な存在の日本人”という重要な役で出演しています。その出で立ちだけで怖いのですが、さらには……詳しくは書けないので、とにかく観てみてください。もう國村隼をまともな人だと認識できなくなるくらいのインパクトがあるのですから。
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4位『愚行録』
(C)2017「愚行録」製作委員会
エリートサラリーマン一家の殺人事件から、過去の“愚行”が次々と明かされるというミステリーです。“要領の良い人間”のイヤ〜なところをこれでもかと描き、そうではない人間は利用されたり搾取の限りを尽くされるなど、徹頭徹尾良い気分になれるところがありません。
オープニングのバスのシーンが秀逸で、ここに物語の本質が凝縮されています。これから大学生になる方が観ると、キャンパスライフが輝かしいだけのものでない、人間関係について身構えなければならないことがわかるでしょう。
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3位『ビジランテ』
乱暴な言い方をすれば「オラこんな田舎イヤだ(イヤすぎ)」な内容です。田舎特有の閉塞感はもちろん、ヤクザ商売をしている連中、夜に騒いで迷惑をかける輩などなど……ただ観ているだけでゲンナリすることは必死です。デリヘルの雇われ店長役の桐谷健太の演技が“鬼気迫る”という表現がぴったりで、その行く末が幸せなものであってくれと、心から願うことができました。
タイトルのvigilanteの意味は“自警団”であり、それは主人公3兄弟それぞれに“絶対に守らなければいけないものがある”ことを意味しているのでしょう。入江悠監督は『SR サイタマノラッパー』シリーズでも田舎で暮らしている鬱屈した青年の姿を描いていましたが、まさかここまでダークな作風に振り切った映画を作るとは……暴力シーンはかなり容赦がないので、覚悟して観てください。
2位 『我は神なり』
(C)2013 NEXT ENTERTAINMENT WORLD INC.,&Studio DADASHOW All Rights Reserved.
ダム建設のために水没することが決まった田舎の街で、粗暴な男がカリスマ牧師と対立するという物語です。進学のために貯めた娘のお金を奪ったりする最低なオヤジが主人公で、その行動はすべてが極端に暴力的かつ自分勝手。まさか、アニメ映画でここまでイヤな気分になれるとは……。
さらに、同じくヨン・サンホ監督作であり、ゾンビ映画の新たな傑作として話題を集めた『新感染 ファイナル・エクスプレス』の前日譚となる『ソウル・ステーション パンデミック』も負けず劣らず超イヤな気分になれる映画でした。『新感染』は残酷描写がほぼないのでお子さんにもおすすめできましたが、こちらの2本のアニメ映画は少なくとも中学生以上になってから観た方が良いでしょう。
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1位『彼女がその名を知らない鳥たち』
(C)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会
登場人物のほとんどが人間のクズと言って良い者ばかり。自分の都合が悪くなるとごまかしたりするのは序の口、問題について責任転嫁をしたり、はたまた恩をあだで返したり、生活描写までもが汚らしいなど、気分が悪くなるシーンがてんこ盛りでした。
特筆すべきは、故・中嶋しゅうが初めて映画に姿を現したシーンでしょうか。ベテラン俳優にここまで嫌悪感を抱かせてしまう白石和彌監督の演出はとことん容赦がありません。(“最悪の食事シーン”に至っては本気で吐き気がしました)しかしながら、クライマックスでは思いもよらない驚きと感動が待ち受けている……感情移入を阻み続けた最低の登場人物たちの、“まさか”の結末を、見届けてください。
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まとめ:“良い意味で超イタい”傑作恋愛映画『勝手にふるえてろ』も見逃すな!
上記に挙げた意外で良い意味で超イヤな気分になったのは、世界にはびこる戦争や虐殺に哲学的な考察を巡らせるアニメ映画『虐殺器官』、パンクバンドのメンバーがネオナチ軍団とバトる『グリーン・ルーム』などでしょうか。
“イヤな話かと思いきや笑ってしまうシーンも多かった”映画には、殺人一家のバカすぎる犯行を追い続けた『全員死刑』や、日本統治下の韓国で莫大な財産を奪う計画をたくらむサスペンス『お嬢さん』もありました。
また、2017年は『ライフ』や『アナベル 死霊人形の誕生』や『ゲット・アウト』や『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』など、良い意味で意地の悪いホラー映画も大充実していた1年でした。
さらに2017年末現在、“良い意味で超イタい”恋愛映画『勝手にふるえてろ』も公開されています。
(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会
詳細はぜひ観て確認してほしいのですが、松岡茉優演じる主人公のイタさと、彼女に何とか近づこうとする渡辺大知のダメ男ぶりは「身に覚えがある……!」「やめてくれ!そんなイタいところを見せないでくれ(でも見たい!)」と思える強烈なものになっていました。ゲラゲラと爆笑しながら泣けるシーンが満載で、中盤には『ラ・ラ・ランド』にまったく引けを取らない“音楽”の感動もある、年末年始に必見の傑作であると断言します。
映画でわざわざ“超イヤ”とか“超イタい”とは思いたくない、という方もいるかもしれませんが、こうした作品でこそ、反面教師的に現実でポジティブに生きるためのヒントがもらえるかもしれませんよ。
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(文:ヒナタカ)
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