『風立ちぬ』を深く読み解く「10」のこと!
6:クレソンを食べている怪しいドイツ人の正体は?
二郎が休暇で出向いた軽井沢にいた、クレソンを食べているドイツ人の“カルストプ”は最後まで正体がわかりません。結論から言えば、彼は日本に潜入していたスパイであったのでしょう。映画評論家の町山智浩氏はカルストプを実在のスパイであるリヒャルト・ゾルゲであると分析しており、軽井沢から会社に帰ってきた二郎がすぐに特高(特別高等警察)に追われる身になってしまうというのも、ゾルゲと接触を持った者たちが逮捕されたゾルゲ事件を反映したもののように思えるのです。
ここで思い出すのが、ドイツで二郎と本庄が夜に散歩をしていた時、何者かが追われてしまう様を目撃していたということです。本庄がこの時に「今の(追っていたの)は格納庫に居たやつだ」と言っていたのは、「あまりウロウロするな」などと二郎に文句を言っていた守衛のことだったのでしょう。また、実在のドイツの技術者であるユンカース博士は、この時に二郎たちに爆撃機の中を見る許可を与えていました。
そして、カルストプは軽井沢で二郎に「ユンカース博士も追われる」と告げています。つまり、ドイツの夜の街で見かけた守衛が追うことになるのは、ただ怪しい者たちだけはなく、飛行機を作るユンカース博士、そして二郎も対象になっていく……ということが示唆されていたのではないでしょうか。
そんなカルストプは、「日本もドイツも“ハレツ”する」などとこの先を予言するような物言いをしていました。それも、彼が正確な情報を集め分析してきたスパイであるがゆえんでしょう。
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
(C)2013 Studio Ghibli・NDHDMTK