『ラストレター』レビュー:『Love Letter』に感銘を受けた大人も未見の若者も必見の岩井俊二映画ベスト盤!
およそ四半世紀の時の流れが
もたらす残酷なまでの美しさ
「勘違い」と「手紙」といった要素がもたらすラブ・ストーリー、それが1995年の映画『Love Letter』でした。
あのときは、死んだ婚約者がかつて住んでいたという住所にあてのない手紙を出したヒロインのもとへ、何と同姓同名で彼の同級生だった女性から返事が届いたことから奇妙な文通が始まる……というものでした。
そして今回も姉と間違えられたヒロインのもとに、姉のことを好きだった男性から勘違いの手紙が寄せられます。
メールやLine全盛のこの時代に手紙とは(もちろん、そうせざるを得なかったという設定もきちんとなされています)、何とも懐かしい情緒を醸し出しています。
そしておそらくは『Love letter』が公開された1995年前後に高校時代を送っていたのであろう姉妹の、およそ四半世紀後の生と死という運命の分け隔てや、そこに至るまでの残酷さ、またそれゆえの切なさなどが美しきノスタルジーと化しながら本作は展開されていきます。
岩井俊二監督作品を語る際、透明感あふれる美しい映像美やロマンティシズムなどの美辞麗句は付きものではありますが(今回もわざと多用させていただいておりますが)、意外に中身はダークであったりヘビーであったりシュールであったり、時には鋭い問題提起がなされていたりと、実はそんなに甘口ではなく、激辛なときもままあります。
その中で『Love Letter』は割かし甘口に寄った恋愛エンタテインメントではあり、そこがまた当時の若い女性層を中心に熱い支持を得たポイントでもあったわけですが、あれから25年、実は辛口作家であることが知る人には知れて久しい岩井監督が、ここでは「岩井映画のベスト盤」としてビタースイートな味わいに徹した大人のための、まさに25年前に『Love Letter』を見て感銘を受けた若者=今の大人たちに向けたラブストーリーを構築しているのです。
もっとも、それだけでは今の若者層が見てもピンと来ない作品なのでは? と思った方には心配ご無用。
さすがは岩井監督、25年前の高校生活の回想シーンにおける初々しいジュヴナイルな魅力の発露は、思春期の機微に昔も今もないといった貫禄の普遍性を訴え得ています。
かつて少女時代『四月物語』に主演した松たか子を今回のヒロインに据えて進められていく前半部。
そして後半はそれまで姉妹の娘を演じていた広瀬すずと森七菜に高校時代の姉妹を演じさせることで、やがてふたつの時代がファンタジックにリンクしていきます。
特に森七菜は『Love Letter』で中山美穂の回想時代の少女を演じた酒井美紀を彷彿させる瑞々しさが大いに印象的な好演で、次代を担う若手女優として一気に台頭していくことが期待されます。
また『Love Letter』の中山美穂&豊川悦司も思わぬところで登場しますので(マジに思いもよらない役柄として!)そのあたりも要チェック。
およそ四半世紀の時の流れがもたらす人間の運命の残酷さと切なさと、それゆえの美しさをノスタルジックに映し出す『ラストレター』。同時にそれは岩井俊二監督の25年以上に及ぶキャリアがもたらす映画的感性の豊潤さを改めて体感させられる秀作としても屹立しています。
おそらく、この作品を鑑賞する観客は、上映中それぞれの25年を思い起こしながら、最後まで見終えた後に涙しつつ、次の25年に向けての未来をささやかに明るく展望してくれることでしょう。
(文:増當竜也)
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