映画コラム

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2020年08月01日

『君が世界のはじまり』レビュー:思春期の普遍的焦燥を見事に描いた青春群像劇

『君が世界のはじまり』レビュー:思春期の普遍的焦燥を見事に描いた青春群像劇



思春期にのしかかる
さまざまな関係性


本作はこうした6人の男女がそれぞれ関わったり、ぶつかったり、共闘したりする姿を瑞々しくもどこかしら寂しげに、しかしながら少しだけ温かい風が吹いてくるような世界観の中で進められていきます。



1対1の関係性だったのが、ちょっとした三角関係に微妙に絡み合っていったり、クライマックスの閉店後のショッピングモールで繰り広げられるみんなのファンダンゴであったり(しかし、そこに一人だけいなかったり)などなど、さまざまな組み合わせの中から思春期の繊細な想いが巧みに描出されていくのです。

また彼らのバックボーンに“親”という存在が重さの大小はともかくとしてのしかかっているあたりは、とかく親の存在を無視しがちな昨今のキラキラ映画のノリとは一線を画したリアルなものを痛感させられたりもします。
(だって10代の頃って、親ほどそばにいて鬱陶しい存在はなかったですものね、でも、いざというときにはいてくれないと実は大変困る、といったあたりも煩わしかったりして……)

前作『おいしい家族』に比べると今回はシリアスなタッチも多く見受けられますが、それでもふくだ監督ならではのキャラクターひとりひとりに対する慈愛の目線はひしひしと感じられます。

また、その目線に呼応するかのように瑞々しく画面の中で立ち回り続ける6人の心地よさたるや!

さすがに6人の中ではやはり松本穂香の上手さが光り、また彼女が他の5人を巧みに引っ張っている感もあります。

が、個人的には印象鮮やかだったのは琴子役の中田青渚で、あの猪突猛進的な過激少女の近くにいる者らはさぞ大変だろうと思いつつ、おそらく彼女はその後一生忘れられない高校時代の思い出の存在になること間違いなし。

そう、この作品、現在進行形の10代から20代の今をリアルに描きつつ、かつては現在進行形だったこちらのようなロートルにまで心の奥底まで訴求していく力を大いに持ち合わせています。

その意味では老若男女を問わず、大いに堪能できる逸品であると強く断言しておきたいところです。

鑑賞後「何か良いもの見ちゃったな……」という気持ちにさせられること間違いなし!

(文:増當竜也)

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