『私をくいとめて』レビュー:のんが究極のこじらせおひとり様に!?
2017年、全国でロングラン上映され、第30回東京国際映画祭コンペティション部門で観客賞受賞した『勝手にふるえてろ』の原作・綿矢りさ&監督・大九明子が再びコンビを結成!
今回のヒロインは朝の連続テレビ小説『あまちゃん』以降、鮮烈な存在感を残し続けるのん。
共演には『おっさんずラブ』の林遣都、『架空OL日記』の臼田あさ美、片桐はいりなど。また、『あまちゃん』でのんと親友役を演じた橋本愛が再び親友の皐月役で出演していることも、注目です。
主題歌は車のCMでもおなじみの大瀧詠一の『君は天然色』、実に思いがけない使われ方をしています。今作はすでに、第33回東京国際映画祭「TOKYOプレミア2020」部門で、一般観客からの投票で最も支持を集めた観客賞を受賞しています。
あらすじ
みつ子は、会社では少々変わり者ですが、気の合う先輩に恵まれ、休日はイキイキと“ソロ活”にいそしむおひとり様女子。
“おひとりさま”ライフがすっかり板についた31歳のみつ子が、一人でも楽しく生きている理由は、脳内に相談役「A」いるおかげです。人間関係や身の振り方に迷ったとき、もう一人の自分の「A」が、彼女に適格なアドバイスをくれます。中性的で冷静なその声の主を、Answerの頭文字をとって「A」と名付けたみつ子は、ことあるごとにこの「A」にアドバイスを求めるようになります。
みつ子の分身である「A」が話しかけるのは、みつ子がひとりの時だけ、誰かといるときは「A」ほとんど出てくることはありません。
みつ子には、多田君という不思議な関係の男性がいます。もともとはみつ子の会社の取引先の営業マンとして知り合ったのですが、全く違うとき、近所のコロッケ屋で遭遇、ご近所さんだということを知ります。
その日はたまたまスーパーで食材の買い出しをした帰り道でした。手作りの料理のことを羨ましそうに語る多田君に、何気なくみつ子はご飯を食べにきませんかつい誘ってしまいます。
多田君はその時は来なかったものの、それ以来、時々みつ子の家にお皿やタッパーを持ってやって来ては、ご飯やおかずをもらっては帰るようになりました。
そんなふたりの仲が進展しないかと見守っているのが、Aと、みつ子の職場の先輩のノゾミ。ノゾミは同じ会社のナルシストな営業マン、カーターを観察するのが生きがいです。
カーターは、見た目は良いものの、性格は自分勝手で過剰なナルシストで、おまけに仕事もあまりできないタイプです。しかし、それすらノゾミには可愛く見えてしまうようです。
しばらく恋愛もしていないみつ子に「A」は行きつけの歯科医を勧めます。しかし、歯科医には下心しかなく、ホテルへ誘って来たため、やんわりと断って別れました。再びみつ子は、恋愛とは程遠い生活に戻ってしまいます。
ある休日、みつ子夕飯の買い出しに商店街へ向かうと、クリーニング屋から出てくる多田君と遭遇。その場の勢いでみつ子は部屋で一緒に夕飯を食べないかと声をかけます。すると、彼はそれに乗ってきました。いつものメニューより少し豪華な夕飯を用意していると、多田君はお花を手土産にやって来ました。いつになく充実した食事の時間を得たことで多田君への好意が募ります。
その一方で、大学時代の親友・皐月から連絡が来ます。皐月はイタリア人の男性と結婚し、イタリア・ローマで暮らしていて、もうすぐ赤ちゃんが生まれます。
冬休みを利用してこっち(ローマ)で年越しをしないかという誘いを、みつ子は喜んで受けました。
飛行機が苦手なみつ子にとって、拷問のような12時間のフライトでしたが、イタリアでの皐月との再会、彼女の家へ向での親族やご近所との賑やかなパーティ、皐月の案内での観光などなど盛りだくさんの時間を過ごします。
冬休み明け、新年の職場では、ノゾミさんがカーターとの進展があったことを報告。一緒に初もうでに行ったというのです。さらに東京タワーを昇るイベントにも一緒に行くことになっているということで、みつ子は多田君を誘ってWデートを企画します。
ノゾミからカーターと付き合うことになったと伝えられるみつ子。そんなみつ子を見ていた多田君は「おれたちも、付き合ってみますか?」と告白して来ました。みつ子は多田くんと付き合うことを決めす。多田くんとのお付き合いは、はじめはぎこちなかったものの、次第に心が安らげる関係へ発展。ある日、レンタカーを借りて遠出デートをした2人ですが、雪のため近くのホテルに泊まることになりました。ホテルの部屋で抱きついて来た多田君のことを動揺のあまり拒んでしまうみつ子。妙なプレッシャーに襲われて思わずへたり込んでしまいます。果たしてこじらせおひとり様女子の恋の行方はどうなってしまうのでしょうか??
分かりみが深すぎるがけっぷちロマンス
本作で描かれるのは、おひとりさまライフを満喫する31歳のみつ子(のん)が、脳内の相談役「A」とともに年下男子・多田くん(林遣都)との恋に挑む“崖っぷちロマンス”です。表面的な部分も魅力たっぷりですが、内側に抱える、ダークな一面や激しく感情を剥き出すシーンの迫力も見事なもので、男性の私が見ても共感する部分を感じました。これがまさに“分かりみが深い”というやつなのでしょう。
原作・綿矢りさ&監督・大九明子は前作『勝手にふるえてろ』で松岡茉優を見事に輝かせましたが、今作でののんの弾け方も甲乙つけがたいものになっています。
のん自身はオファー当時については「どうしてこの役のオファーが来たのか」と疑問を持ったそうですが、中盤のみつ子の感情の爆発、そしてクライマックスでの再びの暴走という一連のシーンを想像したときにピタリとはまるのではないかという大九監督の狙いがあったそうです。
このシーンでは朝イチの撮影にもかかわらず、朝からのんに思い切り怒ってもらったところ、撮影中一度も見たことのない顔を披露、この狂暴さをはらんだ演技のふり幅にのんの“女優魂”に魅せられたと大九監督は絶賛しています。
このほぼ一人芝居とも言えるシーンを見た原作者の綿矢りさも怒りを内包して表現してくるのんが輝いて見えたと語っています。
もろもろ制約もある彼女ですが、今年2020年は『星屑の町』『8日で死んだ怪獣の12日の物語―劇場版―』そして、本作『私をくいとめて』と映画が3本続きました。感性と瞬発力タイプの俳優なので、映画というフィールドはとても合っていると思います。これからも映画俳優のんが楽しみで仕方がありません。
(文:村松健太郎)
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