映画コラム

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2021年01月25日

試写会で絶賛一色の異常事態!『花束みたいな恋をした』は何が魅力的なのか?

試写会で絶賛一色の異常事態!『花束みたいな恋をした』は何が魅力的なのか?



映画業界内で絶賛の声“だけ”

いきなり内輪の話をするのもなんですが、昨年の末頃から映画業界の界隈で絶賛の声しか聞こえてこない映画がありました。 

それが菅田将暉と有村架純が共演したラブストーリー『花束みたいな恋をした』です。

脚本を手掛けたのは元祖トレンディドラマの『東京ラブストーリー』から『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』まで様々な恋愛劇を描き続けてきた坂本裕二。

映画は自分の守備範囲外という想いもあり、あまり手掛けてきませんでしたが、親交の深いスタッフに囲まれて、今回10数年ぶりにオリジナル脚本を書き下ろしました。

業界内で絶賛の嵐が吹き荒れることがどれだけすごいか?



さらに内輪の話を重ねるようですが、映画業界にはマスコミ試写、関係者試写という試写会があります。

これは映画サイトや雑誌の懸賞で当たる試写会とは全く別のもので、専用の映画会社内の小さな試写室で行われるものです。配給会社・宣伝会社から試写状が届き、決められた日時に会場に行って見るものです。(コロナ禍の昨今では専用のオンラインサイトやDVDレンタルで行われることも増えました…。)

そんな試写に来る人達は批評家や私のようなライター、各種マスコミ関係者、映画館などの興行関係者、そして映画本体に関わった人たちです。

最後の映画関係者は別として他の人たちは(決して意地の悪い言い方をするつもりはないのですが)映画を値踏みをすると言いますか、作品の真価を見極めようとするような見方をすることが多いです。

まぁ、自分の仕事に関わるわけですから、斜めに見るとまでは言いませんが“どれほどのもんだい!?”という思いで映画に臨んでいます。

そのように自然と一歩引いた立場というどこか醒めた感情で映画を見ることが大半なものですが、年に数本、そういう感情を忘れさせる映画が現れます。

エンタメ・ラブストーリーなのにみんなが我を忘れた!



最近では『パラサイト 半地下の家族』がそうでした、試写会場では息をするのもはばかられるような緊張感が走り、すべてが終わった時は全員が一斉にフーっと溜息を洩らし、小さい声ですごかったと独り言を言う人多数でした。

このように試写会場で我を忘れさ、ただの映画ファンに戻させる映画は衝撃的なサスペンスであったり、社会派作品などのメッセージ性の強いものであったりすることが多いのです。

ところがそんな中で生粋のエンタメ・ラブストーリーの『花束みたいな恋をした』が、見た人たちが自分たちが映画を値踏みしに来ていることを忘れさせたというのはなかなかにすごいことです。

色々な映画を試写室で見てきて同席した方々と共に一喜一憂しましたが、ここまでエンタメ色の強い作品で作品を見た人たち皆がストレートに映画に魅了されているということはまずないことなので、嬉しい驚きでいっぱいですね。

恋の輝きと切なさを表現したセリフの数々



映画『花束みたいな恋をした』は菅田将暉演じる山音麦と有村架純演じる八谷麦の互いのモノローグを中心にしたセリフの連続で構成されています。

いわゆる“心の声”というやつですが、これが心の距離が近づいたり、好印象を持ったりしたことで一喜一憂し、言葉が弾んだり沈んだりします。

特に映画前半武での互いの心の言葉は見ているこちらも恋をしているのではないかと感じてしまうほど爽やかで瑞々しいものが多く、心に沁みてきます。

脚本に煮詰まった坂本裕二が麦と絹の日記書き出したら一気に話が進んだと語っていますが、それだけ麦と絹の発する一人称の恋する言葉の応酬が映画の原動力になっていたということなのでしょう。

何の変哲もない恋愛の特別さを体現した菅田将暉と有村架純



映画『花束みたいな恋をした』は21歳で出逢った男女の5年間のラブストーリーです。それ以上でもそれ以下でもありません。

間には特段大きな出来事もなく自然災害などもありません。2020年で物語は終わりますが、新型コロナウィルスの感染拡大の描写なども僅かに感じさせる程度で、ただただ等身大の一組の男女の物語です。

第三者が割って入ることもなく、過剰にキラキラ光ることもありません。どちらかが難病に罹ったり、諸事情ではるか遠く引っ越したりもしません。実は…というような秘密も明らかになったりもしません。

じゃあ、映画が盛り上がらないじゃないかと思われるかもしれませんが、そこは流石は菅田将暉と有村架純です。

それぞれのこれまでのフィルモグラフィを見返してもちょっとなかった程の“何の変哲もない”もザ・オーソドックスなラブストーリーで活き活きとした輝きを放っています。

”何の変哲もない恋愛”こそがどうしようもない程、特別なものだと言うことを『花束みたいな恋をした』の菅田将暉と有村架純が改めて気づかせてくれます。

 二人の恋を支える二人のベテラン



脚本の坂本裕二は、有村架純と『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』で、菅田将暉とは『問題のあるレストラン』で競作済みですが、今回オーソドックスなラブストーリーをという想いを念頭に本作の脚本を仕上げました。主役の二人は事実上の当て書きで、二人が演じることを想定していたとのことです。

また、監督の土井裕泰は『猟奇的な彼女』から『カルテット』などまでで坂本裕二と複数回組んだこともある映画・テレビで幅広く活躍するベテラン監督。昨年秋の小栗旬&星野源W主演のミステリー大作『罪の声』の記憶も新しいところですが、有村架純とは『映画 ビリギャル』で、菅田将暉とは『麒麟の翼~劇場版新参者~』ですでに組んでいました。そんな土井監督が坂本裕二の脚本を受けて、“なんの足カセ”もない等身大のラブストーリーを作り上げました。

まとめ

今、最も注目を浴びる若手俳優の二人とベテランががっちりと組んだ『花束みたいな恋をした』は見ているこちらが嬉しくもなり恥ずかしくもなり、切なくもなるそんな珠玉のラブストーリーとなっています。

“よくあること”が多々含まれているために普通の物語なのに老若男女問わずに”わかりみ”が深い映画『花束みたいな恋をした』。少し気恥しい気持ちを感じながらじっくりたっぷりと映画に浸ってみてはいかがでしょうか?

タイトルから麦と絹・二人の恋の結末が伺えてしまうかもしれませんが・・・。
                                                (文:村松健太郎)

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©️2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

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