映画コラム

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2021年02月13日

『すばらしき世界』レビュー:斬新な姿勢で元ヤクザの生きざまを描いた人間ドラマ

『すばらしき世界』レビュー:斬新な姿勢で元ヤクザの生きざまを描いた人間ドラマ



役所広司が見事に体現する
“すばらしき世界”を求める男

これまで役所広司は善悪問わずさまざまな役柄を演じてきていますが、どれひとつとしてパターンにはまったものがないのが大きな特徴であり、魅力であるともいえるでしょう。



たとえば彼が大いに注目されることになった1996年、社交ダンスを題材にしたヒューマン・ラブストーリーの『Shall we ダンス?』と、何とシャブを世の皆様方に使っていただくことが善行であると信じて疑わない驚愕のトンデモ・ヤクザに扮した『シャブ極道』、そして静謐の極みともいえる『眠る男』と、3本の映画が公開されています。

一体どれが本当の彼なのか?(いや、もちろんどれも“役”でしかないのですが)

それでいてカメレオン的な異色派としてのイメージはつかず、あくまでもスターとしての矜持を保ち得ているあたりが、彼の卓抜したところもであます。

西川美和監督は、役所広司が主演した1991年のテレビドラマ「実録犯罪史シリーズ/恐怖の二十四時間 連続殺人鬼 西口彰の最期」を見て以来、彼に惹かれ続けてきての今回のキャスティングだったそうです。



西口彰とは、本作の原案でもあるノンフィクション小説「身分帳」を記した佐木隆三の犯罪小説「復讐するは我にあり」(1979年に今村昌平監督のメガホンで映画化もされてます)のモデルになった人物でもあります。

「身分帳」そのものは今から30年以上前の1990年に刊行されており、西口彰も戦中戦後の闇を引きずって犯罪を重ねてきた男でした。

しかし本作は、ヤクザ=反社と厳しく糾弾されるようになって久しい21世紀の現代、それこそかつての戦争の影響を受ける術もない世代が生きる“今”に設定を据えています。



「前科者の更生は難しい」といったモチーフ自体は決して新しいものではなく、それこそ『ヤクザと家族』でも描かれていますが、あの作品の主人公らは世間の心ない偏見に屈し、結局は元の世界に戻っていかざるを得なくなりました(これも古くからのヤクザ映画のパターンです)。

ところが本作は、そうした難しさの中でひとりの人間が悶え苦しみ、時に元の世界に戻ろうかと思いつつ、実はそれすらも叶わないという現代社会の皮肉の中、健気に、前向きに生を全うしようと腐心し続けていきます。

その生きざまは前科がどうこうのレベルなど優に超越した次元で、見る者に何某かの感動をもたらしてくれます。

タイトルの“すばらしき世界”とは実に皮肉なもので、実は全く素晴らしくも何ともない、それこそ反吐が出そうな現代社会の中、本作の主人公は“すばらしき世界”を見出そうと欲し続けていくのでした。

こういった感慨をもたらしてくれる映画を撮れるのが西川美和監督であり、それを体現してくれているのが役所広司であるという、唯一無二の存在がコンビを組んだことで、本作はまことにもって“すばらしき世界”を銀幕の中に描出することに成功しているのでした。

(文:増當竜也)

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(C)佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

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