2021年03月08日

映画『ソーシャル・ネットワーク』の主人公がサイテーな人間になった「3つ」の理由

映画『ソーシャル・ネットワーク』の主人公がサイテーな人間になった「3つ」の理由


2:グレーな描き方をしたからこその、「信用」の物語になっているから



この映画において、「グレーな描き方をされている」ことがいくつかあります。それは「マークは本当にウィンクルボス兄弟のアイデアを盗んだのか?」「エドゥアルドがニワトリを虐待したという記事を書かせたのはマークなのか?」「ショーン・パーカーのパーティーを通報したのは誰なのか?(マークはなぜパーティに行かなかった?)」ということ。これらの疑惑の真相は、結局はわからないままなのです。

しかしながら、マークは前述した通り「侮蔑的な言葉をブログに並べる」「女子の顔を並べて比べさせランキング化するサイトを作る」という、サイテーなことをした事実が示されています。そのこともあって、劇中の登場人物だけでなく、この映画を観ている観客もまた「コイツはサイテーだから、このくらいのことはしそうだ」というバイアスが働き、彼への疑惑を持ってしまうのです。



そして、ウィンクルボス兄弟とエドゥアルドからそれぞれ訴訟を起こされたマークは、莫大な示談金を払うことになります。女性弁護士の言うところの「今のあなたにとってはスピード違反と変わらない金額」を提示するだけで解決できてしまうのですが、失った信用は取り戻せないまま。数々の疑惑(グレーに描かれていたこと)が真実かどうかは、もはや関係なくなってしまうのです。

ひょっとすると、マークはエドゥアルドがフェニックスというエリートのクラブに入ったことを、(嫉妬の気持ちがあったとしても)心から祝福をしようとしていたのかもしれません。また、マークはウィンクルボス兄弟に何度も「今日は忙しい」とメールを送っていましたが、本当に忙しかった(やっていたのはFacebookの開発ですが)のであり、いつかは協力する気もあったのかもしれません。



だけど、結局は彼らの信用を失ってしまったことで、数々の疑惑も「コイツはサイテーだから、それもやったに決まっている」と思い込まれ、元恋人はもちろん女性への侮辱をしたという事実も裁判前の話し合いで持ち出され、最終的にはお金でしか解決できなくなってしまう。そんな信用にまつわる物語としても読み取れるのです。そのために、種々の疑惑のグレーな描き方(真実は闇の中)が必要だったのでしょう。

加えて皮肉的なのは、エドゥアルドが嫌がらせのためにマークの口座を凍結させたことが、はっきりとした事実として映し出されていることと、ショーンからの「(パーティーを)通報したのはエドゥアルドか?」という問いかけにマークが「違うよ」と即答することです。マークはとことんエドゥアルドを信用していた(だからこそ口座を凍結されたのがショックだった)のだろうな……と、この事実から思えるのですから。そのマークが「信じやすい」、ある意味では純粋とも言っていい性格であることは、ショーンからの「『俺がCEOだ、ビッチ』と書け」というひどいアドバイスを鵜呑みにして、名刺に書いていたことからもわかります。



最後に、マークは「僕は嫌な奴じゃない」と口にしますが、それに対しての女性弁護士最後の返答は「あなたは嫌な奴じゃない。そう振舞っているだけ」でした。

マークは自分の意向に反して広告主への営業に奔走する親友のエドゥアルドでなく、自分の意向と一致する上にもっと巨大な目標を掲げているビジネスパートナーのショーンを選んだ。周りからどう思われようとも、Facebookを成功させるために努力し、実際に億万長者となった。数々の疑惑の真相がどうあろうとも、それはれっきとした事実(現実のマーク・ザッカーバーグもほぼそう)です。そんなマークが、本当に嫌な奴、サイテーな人間かどうか、もしくは「そう振る舞っているだけ」かどうかは、観客それぞれの判断に委ねられている……そういう結末にもなっています。

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