映画コラム

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2021年03月09日

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』レビュー:真の結末「ようやく腑に落ちた!」【※後半ネタバレあり】

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』レビュー:真の結末「ようやく腑に落ちた!」【※後半ネタバレあり】



四半世紀の歴史を経ての感想
……「ようやく腑に落ちた!」


 
今回の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を一言で表すとしたら「ようやく腑に落ちた!」でしょうか。

要するに1995年10月にTVシリーズが始まってからおよそ四半世紀、特にリアルタイムでTV版も旧劇場版(97・98)も接してきた世代のファンが真に見たかった結末はこういうものであったと。

いわば大河的RPGシミュレーション・ゲームでTVシリーズのルートを経て、旧劇場版ルートをクリアした後、ようやく2007年『序』をもって登場した本チャン=新劇場版ルートを14年の月日をかけてプレイし続け、ようやく達成できたといったカタルシス!

同時に、四半世紀というあまりにも長かった時の流れに、思わず溜息を漏らしてしまったのも事実です。

(TVシリーズ開始時に14歳だった人が、もう40歳前後になっているわけですから……)

一方で、今回の作品はそれまでの新劇場版3作はもちろんのこと、TVシリーズや旧劇場版にも大いに目配せが利いていて、その伝で申せば、可能ならばひととおり復習しておいたほうがより楽しめるかもしれません。

それは、かつてガンダム・シリーズの生みの親・富野由悠季監督が『∀ガンダム』(99~00)で、それまでの自分が関わってないものも含むガンダム・サーガをすべて「黒歴史」の名のもとに包括しながら認めたのと同じ感覚のような気もしています。

つまり庵野秀明総監督は、TV版も旧劇場版も許容した上で、今回の新劇場版のラストで全ての決着をつけた。そう言い切ってもよいのではないかと思われてならないのです。

四半世紀という
長い時を経ての真の結末

 既にSNSなどでお披露目されていた10分強の冒頭部ですが、実に迫力ある戦闘シーン足り得てはいます。

ただし、マニアックな分析を求める向き以外の観客にとっては「頭の掴み」以上のものには成り得てはおらず、やはり主人公・碇シンジのその後はどうなった? の方にこそ興味の矛先は向いているはず。

実際この後、期待に違わず、前作『Q』(2012年)のラストですっかり心を閉ざしてしまったシンジがいかにして復活するのか? しないのか?(旧劇場版を体験していると、どうしてもそう考えてしまう!?)が前半部の焦点となっていきます。

この前半部、あたかもセルジオ・レオーネ監督『ウエスタン』(68)に登場した西部開拓の新設町のように牧歌的に綴られているのが心地よくも印象的で、またここにはシリーズのファンにとっては懐かしい顔が多数出てきますので、そこもお楽しみではあることでしょう。

(一方でこの前半部の音楽、エンニオ・モリコーネではなくニーノ・ロータ的というか、特に『太陽がいっぱい』(60)を彷彿させる旋律が聞こえたように感じられたのは気のせいでしょうか)

何よりもここで新生・綾波レイの人としての目覚めがぽかぽかと描かれるのも好ましいところで、中にはこうした一連の描写だけでエンドマークを迎えても良いのでは? と思ってしまう方がいてもおかしくないほど。

もっとも、ここでシンジが復活するや否やの結論は意外にあっさりしたもので、そこに至るまでの心地よい雰囲気に流されつつ、どこかごまかされたようでもあり、描写不足の感は否めないのは残念。

この後、中盤からクライマックスにかけてはヴィレVSネルフの激戦を主体とする人類存亡の戦いが、大画面であればあるほど迫力が増すであろう一大スペクタクルとして描かれていきます。

正直なところ、最近ここまでスケールの大きな日本映画は見たことがありません。

またこれまで『破』(09)で『太陽を盗んだ男』(79)の楽曲を劇中に流し、『Q』『ブルークリスマス』(78)の英語タイトルをあからさまに画面に出すなどのオマージュ的お遊びを仕掛けてきた新劇場版ですが、今回も日本の特撮映画および映画音楽ファンがあっと驚く仕掛けが用意されています。

(あまりその手のものに詳しくない方は、エンドクレジットでタイトル名をご確認ください)

あと、映画の後半部からエヴァ・シリーズ独自の難解な用語が淡々と台詞で繰り出されていきますが、例によって何が何だかさっぱりわかりませんので(もっともインテリジェンスに自信がある方は、どんどん解読チャレンジしてみてください)、理解しようとするのではなく、その声色であったり声音そのものを魅力に転化させながら、事の成り行きを見守るのが得策でしょう。

(私もかつて旧劇場版を見た後、さまざまな用語の意味を知りたくて、いろいろ関連書籍など買いあさったものでしたが、結局全てを解読するのは不可能とあきらめて、新劇場版シリーズに至っては何も考えず感覚的に接するようにしています)

上映時間2時間35分とは、『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』(78)を越える長尺ではありますが、前半の牧歌的な前半を経ての後半のバトル・モードまでのテンポは実に良好。

ただしクライマックス以降は、エヴァならではの精神世界モードも始まるので、このあたりで若干トイレに行きたくなる方も出てくるかもしれません。

(上映前にトイレは済ましておきましょう。あと、コーヒーなど利尿作用がある飲み物も控えたほうが賢明)

そして今回いかなるフィナーレを迎えるかは、それこそネタバレの極致になるので避けますが、大方納得&好印象&感動をもたらしてくれることでしょう。

それにしても、本当にこの結末を見るまでの四半世紀は長かった!

「さよならエヴァンゲリオン!」

そう叫びたい気持ちと同時に、これから先の指針みたいなものを見失ってしまったような、そんな軽い空虚感にも見舞われてしまっているのも事実なのでした。

→『シン・エヴァンゲリオン劇場版』より深く楽しむための記事一覧

(文:増當竜也)

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