映画コラム
庵野秀明監督「プロフェッショナル 仕事の流儀」の言葉にならない衝撃ベスト5|シン・エヴァ製作現場がすごすぎた!
庵野秀明監督「プロフェッショナル 仕事の流儀」の言葉にならない衝撃ベスト5|シン・エヴァ製作現場がすごすぎた!
3位 妻の安野モヨコがいてくれたから
マンガ家であり庵野監督の妻である安野モヨコは、夫の庵野監督に対して「自分のことをしない。死んじゃうんじゃないかなと思った」「誰もお世話しない?じゃあ私するけど」と語っていました。当の庵野監督は、テレビアニメ版『新世紀エヴァンゲリオン』が、観るものに多くの憶測を生む終わりとなったため、一部のファンから「庵野は作品を投げ出した」とまで批判され、ネットの掲示板で「庵野をどうやって殺すかを話し合うスレッド」を読んだ時には「アニメを作るとかどうでもよくなって」しまい、電車の線路に入るか、会社のビルから飛び降りることを考えるまでに追い詰められたそうです。
その時には「死ぬ前に痛いのは嫌だ」という理由で踏みとどまったそうですが、2012年12月、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の公開後にも庵野監督は「壊れた(うつ病になった)」のだそうです。その時に、安野モヨコは「誰かが一緒にいてくれるだけで、救われる部分ってあると思う」と思い、庵野監督に「みんながいなくなっても、私はいなくならない」と告げたのだとか。
個人的に、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の劇中における、マリの「どこにいても必ず迎えに行くからね、ワンコ(シンジ)くん」という言葉が、この安野モヨコの言葉と重なりました。マリは安野モヨコその人そのものであり、作品そのものが庵野監督から妻へのラブレターだったんだ、と再認識できた瞬間でした。庵野監督が生きていてくれて、そして『エヴァンゲリオン』を終わらせることができたのは、間違いなく安野モヨコがいてくれたおかげです。
2位 父との思い出が「欠けていた」から
庵野監督には「家族で遠出した記憶が欠けていた」そうです。それは、庵野監督の父は事故で左足を失い、出歩くことがままならなかったから。その父が「世の中を憎んでいた」ということも、庵野監督はわかっていたのだそうです。そんな庵野監督が最初に夢中になったのが、『鉄人28号』でした。その頃に庵野監督が描いた絵のロボットには、必ず腕や脚がなかったのだそうです。その「欠けているのが好き」の理由は、「『欠けていること』が日常の中にずっとあって、それが自分の父親だった」全部が揃ってない方がいいと思っている感覚が、そこにある「そういう親を肯定したいという思いが、そこにある」と語っていました。
さらに庵野監督は「完璧なはずなのに、どこか欠けているのが、自分が面白い。キレイなものを作っても、そんなに面白くならない。それはキレイなだけだから」とも語っていました。実際に、『エヴァンゲリオン』シリーズの登場人物は、シンジだけでなくレイやアスカも、(身体的な特徴ではなく、精神的なところで)完璧ではない、どこか欠けた人間です。そんな彼らを応援したくなり、そして観る人が自分の悩みや姿そのものを投影したくなるのは、それが理由でもあるのでしょう。
1位 終わり方も前代未聞だった
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の初号試写が行われた間、庵野監督は試写会場の外にいました。なぜ作品を観ないのかとスタッフが尋ねたところ、庵野監督は「毎回観ていないよ。完成したら、次の仕事をしないと」と言い放ち、すぐそばのテーブルに座り、パソコンで何か(脚本?)を書いているのでした。庵野監督は『エヴァンゲリオン』について「自分自身が始めちゃったので、終わらせる義務がある。それは自分自身、スタッフ、一番大きいのはお客さんに対して」とも言っており、実際に25年の時を経て『シン・エヴァンゲリオン劇場版』で本当に終わりを迎えました。でも、まだ庵野監督が作品を作り続けることはほぼ確定的になったのです。
さらなる衝撃が訪れたのはラスト、スタッフが「プロフェッショナルとは?」と聞いたところ、庵野監督は「あんまり関係ないんじゃないですか、プロフェッショナルっていう言葉は。この番組、その言葉だけは嫌いなんです。他のタイトルにして欲しかった。ありがとうございました」と、爆弾発言をしたのでした。
庵野監督が(おそらく)自身をプロフェッショナルと思っていないのは、良い意味でのアマチュア気質だからなのでしょう。劇中では、画コンテを作らないままモーションキャプチャーでのシーンの撮影を始めるなど型破りな手法を取り入れており、アニメ製作そのもので新しいことに挑戦し続けていたのですから。
そのアマチュア気質、いや作家としての執念の結果として、本当にギリギリのところまで追い詰められ、苦しんでいたのですが、その苦しみさえも『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の内容に反映され、だからこそ妻の安野モヨコ、そして私たち受け手への愛情がたっぷりも注ぎ込まれた作品になったのでしょう。改めて、庵野監督および、アニメと番組それぞれのスタッフに「お疲れ様です。ありがとうございます」と、労いと感謝の言葉を捧げたいです。
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(文:ヒナタカ)
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