映画コラム

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2021年04月13日

『マ・レイニーのブラックボトム』レビュー:名優の遺作によせて。一瞬で奪われてしまう「いつか」というもの

『マ・レイニーのブラックボトム』レビュー:名優の遺作によせて。一瞬で奪われてしまう「いつか」というもの

■橋本淳の「おこがまシネマ」

どうも、橋本淳です。
78回目の更新、今回もよろしくお願い致します。

いつか恩返しできたら。

お世話になった方には、なんとか"いつか"恩返しが出来たら、、その為に必死に頑張るのですが。その"いつか"というものが一瞬で奪われることを再認識しました。

どこか無限的な時間や期間に感じていたのですが、やはり全ては有限で無くなってしまう。盛者必衰という言葉どおり、そんな当然のことを最近は何度も何度も味わう。

その度に、その"いつか"を出来るだけ早く、実現しなくてはならないと心に固く誓う。焦ってはいけないとはわかっているけれど、出来るだけ早く。走ることはせず、ギリギリ競歩にならない程度のスピードで、必死に。

ポッカリと中空に舞うこの誓いと気持ちを、グッと押し込めて、前に進む。人間に後退はないのです、すべては前に進む、進ませる。

今回は、コチラの作品をご紹介!!

『マ・レイニーのブラックボトム』



1920年代、シカゴ。レコーディングスタジオにやってきたマ・レイニー(ヴィオラ・デイビス)。彼女は"ブルースの母"と呼ばれる有名な黒人シンガー。1時間遅刻してきた彼女だが、悪びれることもなく白人プロデューサーに傍若無人な態度をとる。



スタジオの地下にはバンド達が、レコーディングのためにリハーサルをしている。その内の1人、トランペット奏者のレヴィー(チャドウィック・ボーズマン)は、作曲の才能もあり野心家でもある彼は、いつかは自分のバンドを持ち、スターになることを夢見ていた。そのために、白人プロデューサーを利用してやろうと目論んでいた。

スタジオでレコーディングを始めようとするが、マからの要求などで何度も録音が止まってしまう。イライラが募る一同。あるケンカから、レヴィーが、自身の過去の境遇を語り出す。黒人たちの複雑な心境、それぞれの音楽性の違い、それぞれの思いがぶつかり合い、、、



Netflixオリジナル映画。黒人劇作家、オーガスト・ウィルソンの戯曲を映画化。デンゼル・ワシントンが制作総指揮を務め、監督はジョージ・C・ウルフ。

なんといっても今作は、昨年若くして亡くなったチャドウィック・ボーズマンの遺作であります。『ブラックパンサー』撮影時から発覚していたガン、その治療をしながら、今回の作品の撮影に臨んでいました。

繊細なレヴィーを演じるためか、ブラックパンサーの時の体格とは真逆な、ほっそりとした姿に変わっていて、登場時は一瞬彼が、チャドウィックかどうか区別が付かないくらい、その役に合わせて変化していました。



ガンの治療をしながらも、参加したかったこの作品、彼の想いは並々なものではなかったのでしょう。その熱い思いは、レヴィーの自身の境遇を吐露するモノローグシーンに結集しています。その素晴らしい芝居で、ゴールデングローブ賞で優秀男優賞を受賞。さらにはアカデミー賞をはじめ、いくつもの賞にノミネートされています。

今作での見所は、いくつかありますが、個人的に面白いと感じた点はこういうところ。

黒人の置かれた境遇と搾取されている現実。マ・レイニーはプロデューサー陣に対して、ずっと横柄な態度を取る。しかしそれは蓋を開けてみれば、彼女の過去の経験からきている。キャリアを積み上げる中で、ずっと白人に搾取され続けてきた彼女は、白人から敬意が払われることなんて今後一切ない、と強く思っている。自分の音楽を守り、家族を守るためのそういった態度である。

しかし、レヴィーは反対に、白人を利用してやろうと、したたかに腰低く近づく。が、逆に利用されてしまい、ほぼタダ同然のように買い取られた曲が、白人バンドによってレコードとなりヒット作になっていく。それはまるで、マの搾取されていた過去の姿のように見える面白さ。

さらに、この2人の音楽性の違い(自身の曲を大切にするマと、世間の流れに迎合するような曲作りをするレヴィー)も面白い。



チャドウィックの演技も素晴らしいし、それだけではおさまらないからこの作品は傑作なのです。各人それぞれが見事なプレーをし、それをコントロールする采配も完璧。伝説的なセッションを観ているようなあっという間な役90分。

今後もきっと残り、語り継がれる作品の一つだと思います。多くの人にこの作品が触れられることを祈ります。

是非、鑑賞してみてください!


Wakanda Forever!!!


それでは、今回もおこがましくも、
紹介させていただきました。

(文:橋本淳)

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(C)David Lee/NETFLIX

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