『愛してるって言っておくね』、悲劇が示す3つの見どころ|アカデミー賞短編アニメ賞受賞作
第93回アカデミー賞の受賞結果が2021年4月26日に発表されました。
今回は『ノマドランド』が3部門受賞して特に注目を集めました。私は個人的に韓国が好きなので、ユン・ヨジョンさんが助演女優賞を受賞したことが嬉しかったです。
人によって好みが違い、今回もどんな作品が受賞するのか注目されて盛り上がったアカデミー賞。もちろん私も楽しみにしていた1人で、今回、特に目を引いたのは"短編アニメーション賞"を受賞した『愛してるって言っておくね』でした。
『愛してるって言っておくね』はアニメーションを通して悲しみを訴えかけてくる物語で、犯罪について深く考えさせられます。作品の時間は12分と短いのですが、その中にギュッとメッセージが凝縮されていて中身が濃い作品です。
そこで今回の記事では『愛してるって言っておくね』を楽しむための3つの見どころを紹介します。この記事を読めば本作が"短編アニメーション賞"を受賞したことも納得していただけると思います。
※本作はNetflixにて視聴できます。
『愛してるって言っておくね』の物語
『愛してるって言っておくね』は、銃乱射事件をテーマに描かれている12分ほどの短編アニメーション作品です。突然、学校の中で巻き起こった銃乱射事件のせいで娘の命を奪われてしまった夫婦の心情を描いたストーリーで、残された立場の気持ちを知ることができ、観ていて心苦しく、殺人事件の愚かさを改めて再認識することができる作品となっています。
見どころ1:影
本作は"影"が大きな役割を果たします。影は登場人物の気持ちを表し、時にその姿を変えて私たちにあらゆる感情を訴えかけます。
悲しみや虚無感などのネガティブな感情はもちろんなのですが、訴えかけてくる感情はそれだけではありません。
影は娘が生きていた過去に遡ることができます。過去で影は形を変えて風船になって娘の誕生日を祝ったり、恋を見守ったりと心温まる描写を描きます。さらに時として、影は星になって街を照らし、ロマンチックなムードを演出します。
しかしそんな影も、悲劇を食い止めることはできませんでした。
事件当日、この日に何が起こるか知っている影は、娘が学校に行くのを止めようとします。しかし、実体を持たない影は無力です。行く手を塞ごうとしても、抱きしめても、いくら抗っても、その足を止めることができませんでした。
その日、娘は亡くなってしまいます。
見どころ2:メッセージ
本作はセリフがほとんど存在しません。唯一発生する声は、事件当日の叫び声だけです。
事件現場の描写はごく僅かですが、数十秒しかない短い時間は銃声と叫び声だけが響きます。
本当に、ただただ恐ろしい時間です。
さらに事件の描写では、本作で唯一、文字を通してメッセージを伝えるシーンがあります。それは被害者が亡くなる間際にスマホから、"If Anything Happens I Love You"というメッセージを送るシーン。
これは和訳するとタイトルにもなっている言葉、「愛してるって言っておくね」という意味になります。
恐らく、最後の力を振り絞って送信したのでしょう。それが撃たれる前なのか、もしくは撃たれた後なのか。どちらにせよ、その光景を想像するだけで胸が痛くなります。
このメッセージは送信された後、文字がポロポロと画面から剥がれ落ち、悲しみを表現する雨となり、両親に降り注ぎます。
その雨は残された両親が流す涙を表しているのか、現場の血を表しているのか、私にはわかりません。
見どころ3:被害者家族
本作が特徴的なのは、事件現場の描写よりも、主に残された被害者家族の悲しみを表現しているところです。事件の後のことに焦点を当てていることにより、被害者家族の悲しみを感じることができ、事件の愚かさを強く感じることができます。
『愛してるって言っておくね』を観て再認識したことは、事件当日だけが悲劇ではないということです。残された被害者家族は、大切な人を失った深い悲しみを一生抱えて生きていかないといけません。
亡くなった被害者が生き返ることはないし、幸せな思い出は悲しい現実を思い知らせ、残された家族は被害者の影を忘れることはできません。
犯人がどれだけ償っても償っても、2度と被害者が返ってくることはありません。
まとめ
「影」「メッセージ」「被害者家族」今回は3つの見どころを紹介しました。
『愛してるって言っておくね』は、”殺人事件の愚かさ”と”残された家族の深い悲しみ”を12分という短い時間に凝縮していて、アカデミー賞に選ばれるほど世界的に認められている素晴らしい作品です。
目を背けてしまいがちな問題と向き合えるきっかけとなる本作を、ぜひご覧ください。
→『愛してるって言っておくね』on Netflix
(文:ゆくん)
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