役を愛すことで、役になりきる。仲野太賀が魅せる真骨頂


『泣く子はいねぇが』『すばらしき世界』『あの頃。』三様のダメ男

ドラマ「ゆとりですがなにか」で演じた山岸も相当なものだった。ゆとりモンスターとして話題を呼びスピンオフドラマが制作されたほど。しかし、映画で見せる仲野太賀のダメ男演技もすごい。近年に公開された映画3作を例に挙げよう。


©2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

2020年11月に公開された映画『泣く子はいねぇが』において、吉岡里帆とともに夫婦役を演じた仲野太賀。子を授かるも、お酒に飲まれやすい体質のせいで取り返しのつかないことをしてしまい、離婚する羽目になってしまう。

その後、住まいを移し生活の立て直しを図るも、なかなか家族のことが忘れられない(余談だが、「コントが始まる」でも共演している古川琴音が同僚役だった)。物語の終盤、車内で静かに謝るシーンが目を引きつけて離さないのだ。「忘れられなくて」「バカでした……間違ってました」と目に涙を溜めながら口にする。彼が演じた”たすく”という男は紛れもなくダメ男なのだが、やり直す道さえ閉ざされそうになる悲哀に観ている側の心が動く。


映画『すばらしき世界』より ©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

2021年2月公開の『すばらしき世界』は、やり直しをテーマにした映画だ。役所広司演じる主人公・三上正夫は出所したばかりの元殺人犯。一般社会でやり直そうとする過程で出会う元テレビ放送局勤務の男・津乃田を、仲野太賀が演じている。

三上と津乃田の交流が、この映画の肝だ。物語序盤は、取材者と取材対象者として。中盤になるにつれ友人同士のような関係性になり、紆余曲折ありつつも最後には親子のような存在になっていく。元殺人犯である三上の所業に恐れをなし逃げ出すシーンがあるのだが、三上に寄り添うことも突き放すこともできない中途半端な姿勢を上手く表していた。「泣く子はいねぇが」の”たすく”と比べると、また違ったダメ男感を出している。

本映画の監督・西川美和の元で、ドラマの脇役などではなく、しっかり役者として仕事をするのが夢だったと語った仲野。物語の流れによって変わる三上・津乃田の関係性について、監督ともたびたび話を重ねたという。終盤、ともに風呂に入り三上の背中を流すシーンを演じるときには、「父の背中を見る息子のような気持ちで」と認識が一致したのだとか。まさに、当シーンの仲野の目は父を見やるそれだった。あえて三上役である役所の表情を捉えなかったところも、にくい演出である。


映画『あの頃。』より ©2020『あの頃。』製作委員会
 
同時期に公開された『あの頃。』では、アイドルオタク仲間の一人・コズミンを演じる。いわゆる”ネット弁慶”で、気が小さく大それたことは一切できないが、影では大胆なことを言いたい放題。仲間はコズミンという男に散々振り回されることになる。

とある事件が起こりチンピラに追われる羽目に陥ったときも、わざと相手を挑発するようなことをして面倒事を増やしていた。実際に周囲にいたら、絶対に友達にはなりたくないと思ってしまうキャラクターだ。しかし、物語終盤から毛色が違ってくる。「最早これはコズミンが主役では?」と思ってしまうほど、主人公を食って掛からんばかりの演技力を発揮しているのだ。

それぞれの作品で、それぞれ違う顔を見せる仲野太賀。これからも彼の引き出しは増え続けることだろう。

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