『ファーザー』レビュー:アンソニー・ホプキンスの名演に支えられた野心的意欲作!
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『ファーザー』レビュー:アンソニー・ホプキンスの名演に支えられた野心的意欲作!
■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT
名優アンソニー・ホプキンスが2020年度のアカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞したことでも話題の作品です。
もっとも、ちょっとした映画通の中には、かの名優が認知症を患う老いた父親を演じていると聞いただけで、「まあ、ホプキンスならそのくらい難なくやれちゃうでしょ?」みたいな、ちょっと冷めた“読み”をしてしまっている方も意外に多かったのではないでしょうか?
(現にアカデミー賞授賞式の直後も「ホプキンスが賞をとるのって、今更当たり前すぎない?」といったシラケた意見もよく耳にしました)
しかし、いざ蓋を開けてみてビックリ!
これがもう、単なる認知症の老人を描いたヒューマン問題作といった通常の枠組みを優に超えた、実に野心的試みに満ちた意欲作だったのです。
未見の方のためにあまりネタバレすることもできませんが、今まで認知症をモチーフにした作品とは一線を画していることだけは間違いない!
何が違うのか?
それは、見ている観客自身がいつのまにか主人公と同化して認知症になってしまったかのような、そんな錯覚を覚えさせていく作りなのです。
少しシビアな見方をしますと、その意味ではこの作品、本作で映画デビューを果たした劇作家フロリアン・ゼレール監督が、舞台と映画の演出の違いに戸惑ったか、自身の秀逸な脚色(アカデミー賞最優秀脚色賞受賞)をうまく映像に転化しきれていない憾みもあり、完璧に成功していると言い切れないところもあります。
(ところどころ、見せ方として「あれ?」と疑問に思わせるところもなきにしもあらず)
しかし、そうしたマイナス面を補って余りあるかのようにプラスの印象へと転じさせてくれているのが、アンソニー・ホプキンスの名演なのです。
何がどうすごいのかは、今はまだ公開されて間もないので、この場に記すわけにはいきません。
しかし「論より証拠」で、まずは見てくださいとしか言いようのないすさまじさ、そして素晴らしさ!
もしかしたらこの作品、アンソニー・ホプキンスが主演でなかったら大失敗していたかもしれません。
(少なくとも彼クラスの名演技と、映画スターとしての存在感のオーラを両立させ得る者でなければ……)
私自身、アンソニー・ホプキンスは映画の見始めの頃から憧れの俳優のひとりで、特に『遠すぎた橋』(77)『チャーリー』(93)『永遠(とわ)の愛に生きて』(93)などリチャード・アッテンボロー監督と組んだときの静なる佇まいにはいつも魅了されっぱなしではありました。
しかし『羊たちの沈黙』(91)のレクター博士役で脚光を浴びて以降、どこか怪優的な扱いをされ続けてきたのがどうにも歯がゆく(ちなみにホプキンスのサイコ演技なら、アッテンボロー監督の78年作品『マジック』のほうが数段印象深いものがあります)、近年も『世界最速のインディアン』(05)『ザ・ライト―エクソシストの真実―』(11)『ブレインゲーム』(15)などの彼を見てほしいといった想いがあります。
そんな中での『ファーザー』は、久々にアンソニー・ホプキンスの勇姿を映画ファンに伝え得る作品でありました。
久々に名優の“今”を堪能しまくり、上映後はニコニコ顔で映画館を後にした次第です。
(文:増當竜也)
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