2021年06月05日

『カムバック・トゥ・ハリウッド‼』『映画大好きポンポさん』からあふれ出る映画と映画制作への愛!

『カムバック・トゥ・ハリウッド‼』『映画大好きポンポさん』からあふれ出る映画と映画制作への愛!


良い作品を作るための確執を
描く『映画大好きポンポさん』



続いて『映画大好きポンポさん』は杉谷庄吾【人間プラモ】の同名コミックをアニメーション映画化したものですが、これがもうシビアなまでに映画制作の裏表を描出していく優れものです。

可愛い絵柄に慣れない映画ファンも、いざ見始めて数分経つとその魅力に取りつかれること必至!

本作の舞台はハリウッドならぬ“ニャリウッド”で、主人公は映画プロデューサーのポンポさん(声/小原好美)。



見た目はお子ちゃまながら、これがもうなかなかどうして敏腕プロデューサーで、嗜好としてはB級映画が大好きで、上映時間は90分がベストといった確固たる信念の持ち主でもあります。

(余談ですが『ストリート・オブ・ファイヤー』(84)のウォルター・ヒル監督は、上映時間が90分から100分の間で収まるよう常に腐心しているとのこと)

そんなポンポさんの下で制作アシスタントをしているのが映画オタクのジーン(声/清水尋也)ですが、彼が作った15秒CMの出来をポンポさんに見込まれて、何と映画監督デビュー!

(日本でも、かつて映画撮影所では助監督に予告編を作らせながら、監督昇進の有無やらタイミングやらを決める風潮があったようです)

ここから俄然面白いことが始まります。

ポンポさんの人を見る目は確かでした。

ジーンは卓抜たる才能の持ち主だったのです。



撮影そのものもいろいろありつつ、新人からベテラン・スターまで気概のある助力を得ながら何とかクランクアップ。

しかし編集の際、場面を上手く繋いでいくために必要なショットを撮っていなかったことなど、まだまだジーンは不慣れな新人監督でもありました。

もっとも普通はそこで諦めてしまうところですが、見た目こそオドオドしていながらも実は映画に対して熱く頑固だったジーンは、ポンポさんら制作サイドに対して追加撮影などをどんどん要求していくのです。

日本でも古くは黒澤明や溝口健二など完全主義者の巨匠は多くいますし、最近では庵野秀明監督の作品にかける執念が映画ファンの間で話題になったばかりですが、このジーンもそういった系列に加えられる監督だったのでした。

かくして始まるプロデューサーVS監督のクリエイトをめぐる熱い闘いの日々!

現在上映中の『HOKUSAI』でも江戸期の絵師・葛飾北斎とそのクライアント蔦屋重三郎の熱い駆け引きが魅力的に描かれていましたが、本作も作品作りの上でのクリエイターの想いにプロデューサー(=クライアントでも可)はどう応えていくべきかといったギクシャクが、可愛い絵柄をよそにスリリングに繰り広げられていきます。

良いものを作りたいという気持ちはみな同じ。

あくまでもそのために妥協したくない映画監督。

一方で映画には時間とお金、そして多くの人が動いて初めて制作できる事を身をもって知るプロデューサーは、そんな映画監督とどう対峙していくのか?



これはもう映画が好きで、映画作りに興味のある方ならますます見逃せない作品であるともいえるでしょう。

こちらもちょっとした映画ウンチクやコネタもいろいろ込められていますが、やはり後半のいわゆる生産者同士のエゴとエゴのぶつかり合いこそが大きな見どころと言えるでしょう。

監督は現在のアニメ映画ブームの火付け役となった『劇場版「空の境界」』シリーズ(07~)の中でも屈指の問題作として話題を集めた『第5章 矛盾螺旋』(08)や海外で大きく採り上げられた『魔女っ子姉妹のヨヨとネネ』(13)などで知られる若き俊英・平尾隆之。

彼自身は本作のジーンの映画監督としてのありようをどう思いながら演出していったのか、ちょっと訊いてみたい気もしています。
(個人的には編集の後の音楽録音やダビングに関するこだわりなども描いてもらいたかったけど、そこまでやると本作の上映時間が90分を越えてしまう!?)
 

いかがでしょうか、今回の2作品、一度でも「映画が好き」と思ったことのある方はもちろんのこと、まだ伊賀の魅力に気づいてない方にもぜひ見ていただきた逸品です。

そして一刻も早く困難な映画制作の現状が改善されていきますように!

(文:増當竜也)

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