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映画コラム

REGULAR

2021年06月28日

『あの夏のルカ』傑作ジュブナイル映画になった「5つ」の理由を全力解説

『あの夏のルカ』傑作ジュブナイル映画になった「5つ」の理由を全力解説


2:夢というテーマを、親友への嫉妬の感情から描く



さらに重要なのは、「夢」というテーマにも、この『あの夏のルカ』が真摯に向き合っているということ。それを「少年2人と少女1人」という関係性の中で描いたことも特筆すべきでしょう。

共にシー・モンスターであるルカとアルベルトはあっという間に親友になり、さらに人間の少女であるジュリアと出逢います。3人は街で開催されるトライアスロンのレースに結託して参加することになるのですが、そこで明らかに「嫉妬」の感情が描かれるのです。

その大きな理由は、ジュリアがアルベルトも知らない知識もたくさん持っていたから。例えば、アルベルトは夜空の星を「魚」だと信じて疑わなかったのですが、ジュリアはそれらが遠く彼方にある存在であること、他にも広大な世界が広がっていることをルカに教えてくれます。しかし、アルベルトはこのジュリアのこの知識を快く思わないばかりか、学校で勉強したいと願うルカの夢も、「人間とシー・モンスターが仲良くできるわけがないだろ」と、勝手に否定してしまうのです。

これは夢への「執着」の物語でもあります。例えば、アルベルトはレースの賞金を手にして、さらにベスパ(イタリアのオートバイ)を買って自由になることを夢見ていたのですが、アルベルトが重要視しているのはほぼ「それだけ」で、他の選択肢や価値観を持ち合わせていないように見えるのです。もちろん、自分の信じた夢や目的に向かって一直線に進むのも尊く素晴らしいことではありますが、それは同時に危険であり、友だちを傷つけてしまう原因にもなる、ということが劇中では示唆されているのです。

「信じれば夢が叶う」という通り一辺倒ではない、夢の本質をシニカルかつ痛切に描くというのは、ピクサー作品に通底するテーマです。例えば、「なりたい自分となれる自分が違う」という残酷さは、それこそ初長編作品の『トイ・ストーリー』(95)で描かれてきたことでもあるのですから。

もちろん、ただ夢の厳しさを提示して終わるわけがありません。例えば、『モンスターズ・ユニバーシティ』(13)では、ピクサー作品で描かれてきたことの「総決算」であるかのように、厳しい夢への向き合い方を真摯に、しかも希望を得られる形で描いていました。そして、この『あの夏のルカ』では夢への執着だけでなく、「凝り固まった価値観」という、さらに大きなテーマにも波及していたのです。

その凝り固まった価値観とどう向き合えばいいのかと言えば、端的に言って「新しい世界を知ること」にあるのでしょう。その手段は勉強でもいいし、友だちから教えてもらうのでもいい。それこそが回り回って、自分の夢のためにも、大切な人(親友や家族)のためにもなると訴えられているのが本当に素晴らしい! 主人公たちはまだ広い世界のことを知らない子どもだからこそ、そのことを知って少し大人になる、成長を遂げているのです。大人にとっても今一度、本当に大切なことは何かを思い出すきっかけになるでしょう。

そのような奥深いテーマを置いておいても、思春期手前の「少年2人と少女1人」という関係性は、やっぱり楽しく見られます。ジュリアはルカやアルベルトに比べても活発な性格で、時折イタリア語を交えて驚いたりする感情の豊かさも含めて何ともキュート。個人的には、ピクサー史上で最も大好きなヒロインであり、彼らの仲良しの時の掛け合いは永遠に見ていたいくらいの尊みに満ちていました。

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