2021年08月28日

千葉真一 追悼:世界のアクション映画を変えた名優に捧げる「決まってるね、千葉ちゃん!」

千葉真一 追悼:世界のアクション映画を変えた名優に捧げる「決まってるね、千葉ちゃん!」


1990年代の海外進出と
世界的リスペクトの浸透

1990年代に入って、千葉真一は活動の拠点を海外に切り替えていきます。

それ以前にも海外合作映画への出演は多かった彼ですが、1991年にJACを売却し、1992年のアメリカ映画『エイセス/大空の誓い』に出演したことを機に、かねがね宿願でもあった海外進出を決意してロサンゼルスに移住し、グリーンカードも取得。

正直、この時期の彼の活動そのものはなかなかうまく実りを示しているように当時は思えず、改めて日本映画人の海外進出の難しさを露呈させた印象まで抱かせたものでした。

日本国内での出演作も激減していったことで、当時は「そういえば千葉真一って今どうしてるんだっけ?」みたいな会話を映画ファン同士で交わすこともあったほどです。

しかし、こうしたマイナス・イメージは香港映画界からのリスペクトを受けて彼が出演した1998年の『風雲ストームライダーズ』で第18回香港電影金像奨で優秀主演男優賞にノミネートされたり、クエンティン・タランティーノ監督の『キル・ビル Vol.1』(2003)の熱いラブコールを受けて出演したことで、一気に払拭されていきました。



かつて1970年代、千葉真一が忸怩たる想いで(しかしながら一度も手を抜くことなく真摯に)演じ続けた空手映画など多くの格闘系アクション映画群は、実は世界中の映画ファンの間で大人気となって久しく、特にアメリカでは“SONNY CHIBA”(サニー千葉)として彼のことは広く認知されていたのです。

この時期に彼の主演映画の数々を鑑賞してはその虜になっていたのがクエンティン・タランティーノであり、サミュエル・L・ジャクソンであり、キアヌ・リーヴスであったりしていたのです。



タランティーノが脚本を書いたトニー・スコット監督作品『トゥルー・ロマンス』(93)の主人公クラレンス(クリスチャン・スレイター)は、部屋に“SONNY CHIBA”主演映画『カミカゼ野郎 真昼の決斗』(66)と『東京-ソウル-バンコック 実録麻薬地帯』(72)のポスターを貼り、映画館で『激突!殺人拳』(74)など彼の空手映画オールナイトを見たりしています。

そして『キル・ビル Vol.1』で千葉真一が演じる役柄は、何と100代目服部半蔵! さらにはTV版『柳生一族の陰謀』オープニング・ナレーションも劇中に導入されていました。

(本作で千葉真一は主演ユマ・サーマンたちスターへの剣術指導も担当し、またサターン賞助演男優賞にノミネート)。

サミュエル・L・ジャクソンは『アベンジャーズ』(12)などのマーベル・シネマティック・ユニバース・シリーズで自身が扮したニック・フューリーが隻眼なのは、千葉真一の柳生十兵衛に倣ったものと告白しています。

キアヌ・リーヴスは『激突!殺人拳』からアクションと演技を学んだと公言しており(韓国の映画監督兼俳優のリュ・スンワンも本作の大ファン)、2015年に来日して千葉真一と初めて対面した折はもう興奮しまくって、もはやスターというよりも「千葉ちゃん大好き!」な子どものようでもありました。

こうした海外からのリスペクトが10年ほど早く浸透していたら、千葉真一の海外進出もまた様相が変わっていたかもしれません。

(実際は1970年代後半から彼への世界的リスペクトは始まっていたわけですが、肝心要の日本人の多くがそのことに気づいていなかった)

実は10年ほど前、一度だけ取材させていただいたことがあります。

そのとき彼はハリウッド資本で日本人が映画制作を敢行しようとすることの困難と、自分が海外でリスペクトされるきっかけとなった70年代格闘系アクション映画などに関しても、その域に甘んじていてはいけないこと、そしてこれから自分はこういう映画を作っていくのだということを、まるで質問要らずのインタビューのように延々と熱く語りつくしてくれたものでした。

その熱さは思わずドン・キホーテを彷彿させるほどで、こちらのような凡人からすると「いや、さすがにそれを実現させるのは……」とうっかり声に漏らしてしまいかねないものまでありましたが、今振り返るとそういった直言実行猪突猛進の姿勢こそが、少なくとも1970年代以降の日本映画のアクションの歴史を大きく変えてくれたことは間違いのない事実だと思います。

『戦国自衛隊』公開時のキャッチフレーズ「歴史は俺たちに何をさせようとしているのか」に倣うと、「歴史は千葉真一にアクション映画を大きく変革させた」と返答してもいいのかもしれません。

いや『戦国自衛隊』の劇中には「歴史なんかに潰されてたまるか」という名セリフもあります。

やはり「千葉真一はアクション映画の歴史を大きく変えたのだ」と言い換えておくべきでしょう。

ちなみに千葉真一は、ハリウッドの撮影現場における本番の掛け声が“ACTION!”であることにも大きく着目し、「アクションとは演技そのものを指しているのだ」と、常々熱く訴えてもいました。

このスピリッツを理解することで、アクション映画が単なる1ジャンルではなく“映画”そのものであることまでご理解いただけるのではないでしょうか。

そして今、彼のスピリッツは現在海外に拠点を移し、アクションからシリアスなドラマまでこだわりなく活動し続けては注目を集め続ける真田広之はもとより、先に挙げたタランティーノやキアヌ・リーヴスらにもきっちり受け継がれていくことでしょう。

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(文:増當竜也)

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