「鬼滅の刃」我妻善逸を好きになってしまう「11のギャップ」
6:意外と常識的な面も
山育ちの炭治郎・伊之助と違い、都会育ちな善逸。劇場版では列車に初めて乗り大興奮の2人に対してあきれたり、危ない行為をしようとする伊之助を全力で止めたりしていた。炭治郎がまともで他の2人がおかしいときと、善逸がまともに見えるときと2パターンあって面白い。
※ここから先は、まだアニメ化されていない原作漫画のネタバレを含みます。
コミックスを最終巻まで読み終わったうえで、善逸のエピソードで最も好きなのは、兄弟子・獪岳との戦いだ。ここでグッと来た善逸ファンの方、ここで善逸を好きになった方も多いのではないだろうか。
獪岳は自ら鬼になり、それを知った育手の桑島慈悟郎(爺ちゃん)は腹を切って死んだ。介錯もつけず、苦しんだらしい。その知らせを聞いた善逸は、獪岳を倒すために一人黙々と修業に励んだ。
善逸の唯一イマイチな点を挙げるとすれば、戦うとき強いけど本人が寝ている(通常時の意識がない)状態なことだった。
だが獪岳との戦いでは、準備の時点から強い意志を持ち、起きたまま戦った点が素晴らしかった。だいぶ先になりそうだが、まだアニメ化されていないこのエピソードがアニメになるのを楽しみにしている。
7:一人で黙々と鍛錬に励む善逸
あんなにギャーギャー騒いだり訓練から逃げ出そうとしていたのに、知らせを聞いた後に一人黙々と修業に励むようになった善逸。心配した炭治郎が「俺にできることがあったら何でも……」と言っても「炭治郎は炭治郎のやることをやれ」と答え、「でも……心配だよ」とおろおろする炭治郎に「お前は本当にいい奴だよな、ありがとう。だけどこれは絶対に俺がやらなきゃ駄目なんだ」と振り返らずに言う。
8:罵倒のセリフがいい
ついに鬼となった獪岳と対戦する時がきた善逸。
普段人を罵るタイプじゃないのに、言葉の切れ味が半端なくてしびれた。
善逸に会うなり挑発してくる獪岳の言葉には一切乗らず、
「適当な穴埋めで上限の下っ端に入れたのが随分嬉しいようだな」
と静かに吐き捨てる。この時の冷たい表情がたまらん……!
ずっと獪岳に「カス」と呼ばれていた善逸。育手の慈悟郎が腹を切って死んだと聞いても動じず、自分を認めなかったから当然と言った態度の獪岳に怒り、
「俺がカスならアンタはクズだ」
「壱ノ型しか使えない俺と壱ノ型だけ使えないアンタ」
「後継に恵まれなかった爺ちゃんが気の毒でならねぇよ」
その後の攻撃でスピード勝ちしたときに
「おせーんだよクズ」
っていうシーンが最高にかっこよかったです……。
善逸、そんなこと言うの……? いや、獪岳への怒りやその他いろんな感情がにより異例でこうなっているのだとは思うが、強い気持ちが表れていて非常にグッときた。
9:兄弟子への複雑な思いが切ない
自分が特別扱いしてもらえないことに不満を持ち、善逸を嫌っていた獪岳。それをわかっていたし自分も獪岳を嫌いだったと振り返る善逸が、その後に続けた気持ちが切ない。
「でも尊敬してたよ心から アンタは努力してたしひたむきだった努力してた。いつも俺はアンタの背中を見てた」
「特別だったよアンタは 爺ちゃんや俺にとって特別で大切な人だったよ」
「だけどそれじゃ足りなかったんだな」
ここで善逸が思い出したのは、3人で食べた食事の時間。鼓屋敷の戦いの後、炭治郎・伊之助と初めて布団を並んで寝た日、「そんなんじゃ、もうごはんを一緒に食べてやんないぞ」「ごはんはみんなで一緒に食べたほうが美味しいんだぞ」と言った善逸。炭治郎のように家族がいたわけではないのにみんなで食べたほうが美味しいと言ったのは、慈悟郎と獪岳と3人で過ごした日々のかけらに幸せを見出していたからだったのだ。こんな時にその伏線が効いてきてより切ない……。
仲間になった頃、炭治郎が鬼を連れていると知りながら、何か事情があるはずだと身を挺して箱を守った善逸。ひとつの常識や考えにとらわれず、自分の視点で物事を考えられるのが魅力だと思う。ここでもまた、相手が自分を嫌っていて自分が相手を嫌いでも、相手の素晴らしい点を見て尊敬できる善逸、すんごいいい奴だ……。いつも好戦的なタイプではないのに、獪岳の陰口を殴ったこともあったようだ。それなのに、こんなことになってしまうなんて悲しい。
10:「幸せの箱」の話
「だけどそれじゃ足りなかったんだな」に続く幸せの箱の話、善逸の言葉としてはもちろんだが、個人的にも考えさせられる言葉で非常に心に残った。
「どんな時もアンタからは不満の音がしてた」
「心の中の幸せを入れる箱に穴が空いているんだ」
「どんどん幸せが零れていく」
「その穴に早く気づいて塞がなきゃ満たされることはない」
この話は扉絵では善逸と獪岳がそれぞれ縦3列に並び、背景が白かった獪岳が一人になり鬼になって背景が黒くなっていくさまと、背景が黒かった善逸が仲間と出会い背景が白くなっていくさまは印象的だった。善逸と獪岳、2人の明暗を分けたものは何だったのか。善逸は仲間と出会えたから?とも思うが、獪岳は悲鳴嶼(ひめじま)のところで仲間と暮らしていたときも彼を裏切った。
いろいろなめぐり合わせが悪かった可能性もあるが、もともとの性質がこういう結果を招いてしまった可能性もある。いずれにしても不幸だ。
幸せの箱の話は、漫画の中だけでなく考えさせられるエピソードだと思うし、幸せに気づける人間でいたいと改めて思った。こういうことを考えられる善逸が好きだ。主人公の炭治郎をはじめ、登場人物の思考に感銘を受けることが多い作品だ。
11:自分で考えた型「火雷神(ほのいかずちのかみ)」
話して獪岳とはどうあっても分かり合えないと改めて感じた善逸。「爺ちゃん ごめん 俺たちの道は分かたれた」
「ごめん 兄貴」
心の中でそう言った後繰り出したのは、「雷の呼吸 漆(しち)ノ型 火雷神」。
獪岳の頸を斬った。壱ノ型しか使えなかったはずの善逸が自分の知らない型を使ったことに、「あの爺贔屓しやがったな! お前にだけ教えて俺に教えと頸を斬られてもなお激しく嫉妬心を見せ、わめく獪岳。
「違うよ、爺ちゃんはそんな人じゃない」
「これは俺の型だよ 俺が考えた俺だけの型」
「この技で いつかアンタと肩を並べて戦いたかった…」
善逸、あんなに鬼と戦いたくないとか死ぬとか言ってたのにいつの間に……?
知らせを受けてから作った可能性もあるが、獪岳が鬼になったと知った後に考えたのだったら「いつか獪岳と肩を並べて戦いたかった」という言葉が出てくることは考えにくい。少なくとも構想はその前からあったと思われる。あんなにビービー言いながら密かに新しい型を考えてたなんて、すごい……!
善逸は、慈悟郎の望み通りいつか獪岳と一緒に雷の呼吸を継承しようと思っていた。兄弟子と一緒に戦うために作った型を、鬼となった兄弟子を斬るために使うことになるなんて、何という皮肉……。これまで出てきた鬼は最期の瞬間には悟ったり自分のしたことを後悔したり、何かに感謝したりする者も多かった。でも獪岳には最後の最後まで善逸の言葉が響いておらず、強欲で嫉妬深いまま終わってしまったのもまた救いがない。
「爺ちゃん ごめん」と言ったところの爺ちゃんの表情も切ないし、「俺はもう兄弟子と思わない」と言った獪岳に心の中で「ごめん 兄貴」というところに、尊敬し大切に思っていた獪岳への気持ちが表れていて非常に切ない。それでもやり遂げた善逸は素晴らしい。
戦いの後、生死をさまよった善逸の夢の中に出てきた爺ちゃん。川の向こうにいる爺ちゃんに獪岳と仲良くできなかったこと、自分がいなければ獪岳はこんな風にならなかったかもしれないこと、生きているうちに柱になれなかったこと、何も恩返しできなくてごめんと謝る善逸。慈悟郎は涙を流しながら「お前は儂の誇りじゃ」と言う。間違いなく本心だと思うし、本物の爺ちゃんが夢に出たのだと思う。
慈悟郎に対して、最後までしてもらえなかったことを数えて恨みながら死んでいった獪岳、自分ができなかったことを詫びる善逸。やはり明暗が分かれたのは必然だったのかもしれない。
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(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable