アニメ「平家物語」山田尚子と吉田玲子のアレンジは大胆かつ、原作のエッセンスに忠実
原作の特徴を汲んだ大胆なアレンジ
アニメ版は、その原版に忠実な古川訳に対して大胆なアレンジを試みています。
原作には、全編を通した主人公は存在しませんが、アニメ版はびわと呼ばれるオリジナルキャラクターの少女を主人公に据えています。
びわは、琵琶法師のびわで、彼女は琵琶法師の娘であり、本人も琵琶の演奏をします。びわは未来が見えるという設定になっており、物語は幼いびわが父親を平家の武士に殺され、平重盛を訪れ「お前たちはいずれ滅亡する」と告げ、始まります。第一話で、びわは重盛の屋敷で世話になることになり、重盛やその子どもたち、妹の徳子らと時を共に過ごし、絆を育んでいく様子が描かれます。
そして、びわは主人公であると同時に、語り部ともなっていて、成長したと思しきびわが弾き語るシーンが時折挿入されます。つまり、平家の屋敷で世話になった琵琶法師の娘が、その興亡を弾き語っているという体裁になっているのです。
ちなみに、びわ役の悠木碧さんが見事な琵琶語りの口上を聞かせてくれて、本作の大きな見どころの一つとなっています。
原作では、琵琶法師はあくまで語り部で物語の中に登場しません。しかし、古川訳を読むとわかるのですが、語り部自身の気持ちを随所に感じさせ、まるで実際に見てきたかのように細かいディテールとともに語られているのがわかります。
例えば、十一の巻「内侍所都入-合戦おわる」の章で、新中納言知盛が入水自害した後、その海を、
主人のいない空の船が潮の流れに押し流される。風に吹き流される。揺られて進むが、当てもない。ただ痛ましい。と詩情豊かに描写しています。さらに、平家の旗が捨てられている海上を、紅葉の葉が吹き散らされているようだと描写してみたりと大変に具体的かつ、詩的です。
「平家物語」には主人公はいません。しかし、この物語はだれかが声で語る物語です。原作を読むと、語っているだれかの感情に溢れていて、しかもやたらと具体的。アニメ版は、それらの特徴を汲んで、未来が見えてしまう人物が、まさにその目で間近に平家の興亡を見ていた、という脚色をしたのではないかと思います。
さらに、未来が見えるというのは、この物語を観る私達にも近い存在と言えるかもしれません。現代の私たちは平家が滅びることを知っています。悲しい結末を知りながら、この物語に付き合う視聴者と、びわは同じ立場にいるわけですね。
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(C)「平家物語」製作委員会