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2021年09月24日

アニメ「平家物語」山田尚子と吉田玲子のアレンジは大胆かつ、原作のエッセンスに忠実

アニメ「平家物語」山田尚子と吉田玲子のアレンジは大胆かつ、原作のエッセンスに忠実


女性が主役の「平家物語」



前半の物語の中心となりそうなのは平重盛とその妹、徳子です。

平重盛は、平清盛の息子の1人で、原作に登場する平家一門の中でも、最も理知的な人物として描かれています。権力を手中に収め、横暴の限りを尽くす清盛に対し、意見したりもします。

この重盛にもアニメ版はアレンジを施し、びわと対称的に過去が見える能力を持っています。重盛は、びわの父親が平家に殺された過去を見てしまったことが、びわを招き入れるきっかけの一つとなっています。



もう一人の徳子は、平家物語の幕引き役であり、平家滅亡後も生き残った人物です。びわは、徳子を大変慕っており、大きな影響を与える人物になりそうな予感を漂わせています。

原作の最後の巻である、十二の巻の後半は徳子のエピソードなのですが、この巻は語り手の感情がとりわけ強く発露されているように読めます。始まりが「歌え」という命令口調ですし、「撥よ、撥よ、撥よ! この合戦のために、何面もの琵琶よ!」など語り手自身がかなり感情を込めているような描写が頻繁に登場します。

とりわけ、面白いのが、唐突に語り手が女であることを主張し始める場面があることです。
「鳴って、女のために歌え。あるいは女であるからこそ、子のために夫のために親のために、女ではない者たちのために歌え。語れ。そのためには声が要る――女の声がいる。はっきりと女の声が。
女たちを代表しての女の声が要るのよ。だから語ります。私が語りますからね。ほら、撥!」

色々な人が書き足しているから、全編を女性が作ったわけではないでしょうが、この辺りは女性が語り手となっているということなのでしょう。アニメ版が語り手を女性にしているのは、ある意味原作のエッセンスと引き継いでいると言えるでしょう。



どうして、徳子が幕引きとなる最後の章はこんなに語り手が女であることを強調して、強い感情を発露しているのかわかりません。しかし、アニメ版は、語り手のびわが実際に徳子と親しかったという物語にしているわけです。この十二の巻がアニメでどのように描かれるのかはまだわかりませんが、原作を読んでおくと、アニメ版のアレンジは腑に落ちるものがあります。

びわは男の子の恰好をして女であることを隠しているのですが、第一話で徳子は一目でびわが女の子であることを見抜きます。「どうして、男の子の恰好をしているの。でもその方がいいかもしれないわ、女なんて」と言い、当時の武家社会の女性の受難を匂わせています。



「平家物語」は軍記物語で、雄々しい合戦描写も豊富ですが、実は女性の描写もたくさん存在します。全編通して読むと、血沸き肉躍る戦争ものというよりは、女性をはじめとする弱き者たちの苦難と悲劇、そして慈しみの物語であることがよくわかりますが、山田監督と脚本の吉田玲子さんは、そういう面をかなり多く掬い取っていくのかもしれません。

訳者の古川さんのアニメ版に向けたメッセージもそれを示唆しています。古川さんは、多くの人が『平家物語』を誤解していると言い、「いったい誰が、『平家物語』の主役は女たちでもあるのだ、と理解したか? 私は『このTVアニメ版は、したぞ』とここに断じる」と力強く語っています。

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(C)「平家物語」製作委員会

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