『サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~』レビュー:難聴を患ったドラマーの聴覚体験を映画館でリアルに再現!
『サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~』レビュー:難聴を患ったドラマーの聴覚体験を映画館でリアルに再現!
■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」 SHORT
邦題の印象から、見る前はメタル・バンドのドラマーのアナーキーな生きざまでも描いた音楽映画かと思っていましたが、いざ見始めると、なるほど冒頭の10分ほどは主人公ルーベン(リズ・アーメッド)のハードな演奏と、そのけたたましい音響の数々が見る者を圧倒します。
しかし本作の真の始まりはその後、主人公が難聴に陥り、同じ境遇の人々のコミュニティを訪れるところからであり、やがて彼はそこの仲間に加わっていきます。
このあたりで気づかされるのですが、本作は2021年(2020年度)アカデミー賞で作品・主演男優・助演男優・脚本・編集、そして音響賞にノミネートされ、そのうち編集&音響賞を受賞しています。
この音響賞受賞の所以とは、ライヴ演奏などの激しい音響の技術的処理もさながら、それ以上に難聴という音の聞こえない世界の静寂を表現するためのサウンドデザインに対する賛辞と受け止めるべきでしょう。
即ち主人公が難聴に陥って音が聞こえなくなっていく過程、コミュニティで仲間たちと交流しながら聞こえない音の代わりのものを見出していく姿、しかしバンドマンとしてやはり音を取り戻したくて苦悩し、その結果としての行動……。
人は自分の身に振りかぶっさってきた人生の危機といかに対峙していくべきなのか、そのひとつのケースを画と音の融合を以って繊細に、そして見事に表現し得た実験的かつ挑戦的な作品です。
コミュニティ内での子どもたちが、いかにもワイルド風情な主人公に惹かれて集まっていく様子など、いっそ彼はここに留まっていたほうが幸せなのではないか?とも思わせつつ、人が心に思うことは誰にも止められない人生の機微が、後半へ進むに従って音響効果の変化とともに濃密に描出されていきます。
本作を上映する劇場の多くは、それぞれ自慢の音響システムを駆使した形態で上映に臨んでいます。
映画館ならではの最上の音響でぜひ“音のない世界”の音を体感してみてください!
(文:増當竜也)
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