<東京が焼け野原?>『東京自転車節』は狂気あり笑いありのリアル・ロード・ドキュメンタリー
「東京は焼け野原だ」
青柳監督があの瞬間にジョーカーになっていたとするなら、東京はすでにゴッサム・シティになっている、ということだ。それがあまりに当たり前で日常の風景になってしまっているがゆえに、我々自身もその事実を見逃してしまっている。いや、知らないフリを決め込んでいる。
公園のベンチに座っていると、あるおばあさんが話しかけてくるシーンがある。「この辺りはかつて、丸焼けだった」と教えられると、「コロナ禍の東京は今でも焼け野原だ」と監督はモノローグで噛みしめる…。
『東京自転車節』は、一人の青年が東京にやってきて、その毒気を浴びて“ジョーカー”に変貌し、この街が焼け野原=ゴッサム・シティであることを自覚するまでの記録だ。凡百のドキュメンタリー作品が束になってかかっても叶わないほどの、生々しいリアリティと身体性を、この映画は獲得している。筆者が『東京自転車節』を激推ししている理由は、その一点にある。
青柳監督自身の発言のなかで、非常に興味深いものがあった。ウーバーイーツには、一定の条件をクリアすると追加報酬が貰える「クエスト」というインセンティブ・システムがある。それが、ゲーム感覚で楽しいのだと。彼はウーバーイーツというシステムに操られていることを自覚しつつ、それを楽しんでいるのだ。それを語っているときの彼の表情は、とても穏やかで柔和なものだった。
青柳監督は東京に住まいを借りて、新しい作品の構想を固めているところだという。だが、ウーバーイーツのお仕事も絶賛継続中。大きなデリバリーバッグを背負い、今日もどこかでチャリを漕いでいる。
「労働ってシステマチックなものじゃなくて本来もっと人間らしい血の通った作業だと思うから、ウーバーイーツという身近なシステムくらい自分の力で血の通ったものにしたいと思いました」(映画パンフレットより抜粋)
人が作った食べ物を人に届けるという行為に喜びを感じ、彼はその繋ぎ役であることに誇りを感じている。だからこのゴッサム・シティで走り続けていても、青柳監督は“純粋で朴訥”な自分に戻ることができたのだろう。それを目撃するだけでも、『東京自転車節』という作品には一見の価値がある。願わくば、より多くの人々にこの映画が届けられますように!
(文:竹島ルイ)
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