2021年11月13日

『映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ』は新入社員育成物語だった?

『映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ』は新入社員育成物語だった?

実は新入社員育成物語だった?



また、『映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ』は前作以上に大人の共感を集める内容となっていることにお気づきだろうか?ふぁいぶの行動に着目すると、新入社員の失敗プロセスを踏襲しており、身につまされる思いをしながら行く末を追っている。

ふぁいぶは冒頭で、小さな船に乗ろうとするが仲間に「乗れないよ」と冷たく追い払われてしまう。また周りが自由自在に魔法を唱えすみっコたちを歓待しているのに対し、ふぁいぶはフォークの代わりに熊手を出してしまうなど失敗続き。仲間の哀れみの目が辛くのしかかってくる。ふぁいぶは、誰かに貢献したいと無意識に夢を抱いている。その夢が暴走し、消失の魔法という明らかに取り扱い厳禁な魔法を習得しようとしてしまい、結果として大惨事を招いてしまう。

この話は、部活や会社でもよく起きる話だ。新入部員、新入社員が組織に中々貢献できず、悶々とする中で恐ろしい行動に出て大惨事となる。この映画の中では、ふぁいぶの失敗を問い詰めることなく手を差し伸べ、チームで失われたアイデンティティを取り戻そうとする。まさしく、組織マネジメントの教科書となるべき話となっているのです。

誰しも最初は失敗する。自尊心がドンドン削られ、自分の現在地と夢との間に大きな溝が生まれていく。その溝を埋めようとして大失敗するリスクがあるが、そのリスクを背負うことこそ組織に求められた使命であり、それが成長に繋がっていく。

かつて組織活動で大きな失敗をした者にとってこの映画は救いになるだろう。そして組織を動かす立場としては、良きロールモデルとなるだろう。実際に、ふぁいぶは終盤、とかげの夢を叶えるために、自分一人ではなく周りに相談してアクションを起こすようになった。本作はふぁいぶの見事な成長譚になっていたのです。

脚本・吉田玲子の存在



さて、そんな『映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ』の脚本を手掛けたのは吉田玲子です。彼女は、既存のアニメ、漫画、児童小説の原作を知らない人でも楽しめる作品に昇華させることで有名な脚本家です。

『映画 けいおん!』では、輝ける青春の終わりの感傷的な感情をロンドン旅行を通じて描いている。旅先で突然、ライブをするなど、現実的な範囲で海外旅行における一期一会のハプニングを盛り込み、卒業に向かって駆け抜けていく姿は、彼女たちを知らなくても感動的な物語に感じるだろう。

また、『映画 聲の形』では、いじめの加害者となった者たちの安易に赦されない世界を辛辣に描いた。『リズと青い鳥』では、物静かな女の子と明るい女の子の対話を通じて、自分のアイデンティティを確立していくまるでイングマール・ベルイマン『仮面/ペルソナ』のような話に仕上がっていた。

さらに『劇場版 のんのんびより ばけーしょん』は、フランスのバカンス映画のような作品となっている。例えるならば、ジャック・ロジエ『オルエットの方へ』に近い、美しい地を背に他愛もない会話を紡ぎながら日々が流れ、そして旅の終わりに切なさを感じる繊細な感情を捉えていたと言えよう。

このように、吉田玲子は既存のアニメや漫画であっても人間の本質的な心理を汲み取り、尚且つ往年の名作映画の香りを感じさせる会話劇を紡ぐのに長けていると言えよう。今回の場合、サンエックスが積み上げてきた30秒動画や、すみっコぐらしのエピソードをふんだんに盛り込みつつも、「夢とは何か?」をテーマに新人が大失敗する原因と対策について掘り下げていった。65分でこの密度を描けるところに彼女の手腕が光ります。

一見すると子ども向けのライトな映画に見えるが、じっくり見つめると底無し沼のように深い作品であることが分かります。吉田玲子恐るべし、すみっコぐらし恐るべし。


(文:CHE BUNBUN)

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