『アイの歌声を聴かせて』あの謎がついに解けた?吉浦康裕監督単独ロングインタビュー!
『アイの歌声を聴かせて』あの謎がついに解けた?吉浦康裕監督単独ロングインタビュー!
「ホラー」と呼ばれる理由について
――Twitterでは一時期、『アイの歌声を聴かせて』で検索すると「ホラー」とサジェストされることもあり、実際に「怖い」ことを記した感想も多くありました。それも含めて面白い作品だと思っているのですが、監督としてはどうお考えでしょうか。映画に限らず創作物では、客観的にみれば劇中のメインキャラですら不道徳な行動をすることも多いですよね。それは作品を作る上では避けて通らないといけないこと、その壁を越えないとドラマは作れないと思っています。僕がこの『アイの歌声を聴かせて』で最低限に引いた線は、「AIが人間の想定する枠組みから外れるんじゃないかと怖く思う人もいる」上で、「この映画で描こうとしていることはそうじゃない」ことでした。
――その作品の姿勢はとても誠実だと思います。映画を観た人が怖いと感じる理由は、シオンが「ターゲット」という言葉を使ったり意味深な写真を送ってきて暴走するのではないかと思わせたり、はたまた美津子が飲んだくれているという描写がストレートに怖いということにもありますよね。
美津子が丸い表彰楯を投げて鏡が割れるシーンは、「ホラー映画のつもりで」ってコンテに書いてありますからね。
――サトミが家に帰ったら、玄関に美津子の持ち物がバラバラに落ちていて、もう美津子が正常じゃないとわかったのも怖かったです。
自分で観てみても、良い意味でしんどかったですね(笑)。
――それらの怖いシーンで、サトミが潜在的に抱えている不安や恐怖が顕在化した、とも思っています。サトミはいつも誰かのためを思って行動していて、実質的にサトミの幸せを願うシオンと同じようなことをしているのに、結果的に不幸な出来事を呼んでしまっていました。美津子の「誰かを幸せにするための行動が、逆に不幸を招くことだってあるかもしれない」というセリフもそれを象徴しています。でも、だからこそ、そのセリフをシオンが覆し、サトミたちが幸せになる物語は感動的で、幸せをめぐる寓話として素晴らしいと思います。
その美津子のセリフは、僕の書いた脚本の中でそのまま使われました。共同脚本の大河内さんもすごく大事なところだと考えて、そのまま残してくださったんだと思うんですよ。それはサトミ自身のことであるし、もっと言えばAIが「幸せをどう解釈するか」で結果的な不幸までもが「出力」されることもあると技術者の美津子は考えている。それらと同時に、その不幸なことが直後の展開で起こるかもしれないという伏線になっているんです。
――本作を怖いと感じるさらなる理由は、物語の核心部分、シオンが8年間もサトミを幸せにしたいと願い行動していたことが、裏を返せば、言葉は良くないですが「まるでストーカーじゃないか」と思う方もいるようです。
例えば、監視されるのが怖いとか、AIが自主的に8年間も監視し続けるということを、ただハッピーなこととして描いて、美津子の言うような懸念を劇中でいっさい描かないとしたら、それはそれで危ないことだと考えています。でも本作では、そうした大人側の視点も描いた上で、でも子どもたちにとってそれはすごく肯定するべきことなんだって描くのは、僕は大事だと思うんです。
現実の出来事を鑑みて根掘り葉掘りすれば、他にも色々と問題視される要素はあると思います。例えば、自動運転の描写で「運転手がハンドルに手を置いていないこと」を問題視する方もいるでしょうし。でも一側面だけでしか観られないものよりも、「これって裏返すとこうだよね」って考えてもらえる方が、面白い映画だと思うし、面白いSFだと思いますよね。
――おっしゃる通り、「ちょっと怖いよね」と思うこと、そうした違う側面を考えられること込みでの奥深さや面白さがある作品だと、改めて思います。
作り手が言うことではないかもしれないですけど、映画として「ねじれている」ところがある。それでいいんだなと思います。
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(C)吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会