<新作レビュー>『明け方の若者たち』デリケートでどこか諦念に満ちた「今」を象徴する若い男女の恋
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■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT
今の若者たちの「リアル」をラブストーリーの形をとって描こうとしている映画が増えてきている気がします。
(居酒屋もよく出てきますね。コロナ禍でみんななかなか外で飲みづらいこともあってか、何となく今の目では願望の現れのようにも勝手に映えてしまいます……。下北沢も明大前も高円寺も、再び青春映画の舞台の定番として戻ってきたような……)
ここでは年下の〈僕〉(北村拓海)と年上の〈彼女〉(黒島結菜)の出会いと恋の行方が、瑞々しくも最初からどこかしら危うさを秘めつつ描出されていきます。
ただし一方では意外とオーソドックスで普遍的かつ自然なものとして映えて見えるのは、期待の新進・松本花奈監督をはじめとする、映像が持ち備える罠に臆することなく普通に接し続けることのできる世代ならではの持ち味なのかもしれません。
学生時代に抱いていたと思しき社会への理想が、いざ現実に直面するや戸惑いを示すも解決策があるはずないという構図にしても、今も昔も決して新しいものではないものの、2021年のクリーンヒット作『花束みたいな恋をした』同様、そういった焦燥感にこそ「今」を生きる世代はシンパシーをもってドラマに入り込みやすいのかもしれません。
中盤でのちょっとした関係性の種明かしも意外にあっけらかんとしていて(したふりをしていて)、ふと気づくと昭和の熱血とも平成初期の低温気質とも異なる、ちょっとクールに抑えた人肌に近い青春ラブストーリーへの憧れみたいなものが画から喚起させられていきます。
透明感あふれる映像センスからはラブシーンですら汗の匂いは皆無で(キスだけは思いきり激しいのに、決してお互いガウンを脱ぐことはない)、ことさらオシャレを強調するわけでもなく、普通に自然で美しく、そういうものが「今」は求められているのか……。
デリケートな、そしてどこか諦念に裏打ちされた、そんな時代を象徴しているような作品に思えてなりません。
その中で〈僕〉のおどおどした淡々さと、幼くも大人びても見える〈彼女〉の対峙から浮かび上がる無念の想いの発露は、演じる北村匠海と黒島結菜の個性の賜物で、上映時間が経つごとにそれぞれ魅力を増していくかのようでもありました。
(あと、佐津川愛美はいつもながらに良いですね)
(文:増當竜也)
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(C)カツセマサヒコ・幻冬舎/「明け方の若者たち」製作委員会