映画コラム
<2021年公開映画TOP10>「あなたのベスト10は?」って訊かれたから私的に書くが、ネタバレすると1位は誰がなんと言おうと『ビーチ・バム』だ
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【第6位】現代と60年代を鮮やかな手付きで同期してみせた『ラストナイト・イン・ソーホー』
映画の選曲させたら今や世界一。エドガー・ライトの最新作。相変わらずのエドガー・ライトの手付きで現代と60年代のロンドンを鮮やかに同期させてみせる。
選曲のセンスも相変わらず素晴らしく、とくにエロイーズ(トーマシン・マッケンジー)がパーティーで居場所がなかった。そんな彼がBeatsのヘッドフォンを装着し、60年代の音楽を再生すると、そこでかかっていた現代の楽曲と低音が完全に同期するシーンは、映画における音楽の使い方を確実にネクストレヴェルまで引き上げたと思う。
ただ、性暴力描写があるため、人によってはフラッシュバックしてしまう可能性がある。未見の方はご注意を。
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【第5位】この手の映画は苦手なんです。けれど『Summer of 85』
この手の映画は苦手である。というとちょっと語弊があるかもしれない。少なくとも、「あ、観に行こうかな」と自発的に映画館には行かない時点で、「さほど興味がない」と表現したほうが正しい気がする。
だが本作は、そんな私の意識を転換させてくれた。青春映画としても素晴らしい仕上がりだと思うし、アレックス(フェリックス・ルフェーヴル)を口説き落とすダヴィド(バンジャマン・ヴォワザン)の行動は「絶対に断られないように誘導してくる」ので、下手なホラーより余程怖い。
昔、中目黒の焼き鳥屋で飲んでいて、身長190cmのオカマに巧みな話術で誘導され、家まで送らされ、これまた巧みな話術で気付けばオカマ宅で飲み直していたのをなぜか思い出したが、とにかくダヴィドの誘導する能力は桁違いで、思わず「これなら俺も抱かれてしまうかもしれん」と要らぬ心配をするほど。
それはさておき、ひと夏の初恋や別離を描いているものの、フランスの青空のせいなのか、冒頭で流されるThe Cureのせいなのかはわからないが、とにかく風通しが良い映画である。劇中でアレックスが起こす行動(というか運動)は、まさに名前を付けられない感情が表出しており、その運動はどんな踊りよりも滑稽だが、美しくもある。思春期に味わう喪失の大切さを教えてくれる名作だ。
【第4位】実は映画館で観てない。しかも最後の曲を最初に観た『アメリカン・ユートピア』
全盛期には週に3回ほど違う人に『アメリカン・ユートピア、あれすっごい良かったけど観ました?』と訊かれたので、なぜか天の邪鬼が発動し、最後まで映画館に足を運ばなかった。
私は結構なトーキング・ヘッズファンであり(正確にはティナ・ウェイマスがトップで、次点にデヴィッド・バーンが位置する)、スパイク・リーも大好きである。つまり嫌いになれる要素がひとつも無い。だが、繰り返すが劇場では未鑑賞である。
しかし、この年末に某音楽バーで飲んでいたところ、爆音で聞き覚えのあるコーラスとイントロが流れ出し、映像が映し出されている壁に目をやると、裸足のデヴィッド・バーンが楽隊を引き連れるように行進しながら「Road to Nowhere」を歌っていた。
映像は凄まじいほど幸福なヴァイブスに満ちあふれており、その衝撃は手にしていたクラガンモアのソーダ割りを落としそうになるほどで、ちょっと泣いた。
正直、この体験だけでも年間TOP10に余裕で食い込むのだが、一応フェアではないのでレンタルし、全編通して鑑賞した。無論最高である。スパイク・リーの静かなる怒りを感じられるのも良い。本作はデヴィッド・バーンの作品でもあり、スパイク・リーのフィルモグラフィのなかでも輝き続ける1本になるはずだ。
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