<有村架純> 映画&ドラマ『前科者』で彼女が演じる「保護司」って?

「罪を憎んで人を憎まず」その理想とシビアな現実



さて、保護司という職業ですが、あくまでも非常勤国家公務員で、報酬はゼロという点に驚かされます(活動内容に応じて実費弁償金は支給されるものの、いってみれば必要経費みたいなものでしょう)。

ボランティアみたいなものにも思えつつ、これは単に人間が好きな博愛主義だけでなく、ある程度の生活力がバックにないと正直なところ継続が難しそうな感じもしますが、実際のところはどうなのか?

ただ、ここ最近保護司が登場したり、保護司をモチーフにした映像作品が増えてきている気もしています。

現在もNHKBSプレミアム&BS4Kで、国語の高校教師から保護司に転じた主人公を舘ひろしが真摯に演じるプレミアムドラマ「生きて、ふたたび 保護司・深谷善輔」が放映中(主人公は国語の高校教師から保護司に転任したという設定)。

昨年の西川美和監督による映画『すばらしき世界』(21)では、役所広司扮する出所したばかりの主人公を迎える保護司夫妻を演じた橋爪功&梶芽衣子が印象的でした。

植田中監督、洞口依子主演の映画『君の笑顔に会いたくて』(17)は、宮城県名取市在住の保護司・大沼えり子さんをモデルに、彼女の活動や更生のための努力の日々を綴ったもので、今も各地で巡回上映中です。

今の時代、保護司という職業にスポットが当てられ始めているのは、単なる偶然なのか?

いや、人とは大なり小なり罪を犯すものであり、その中で「罪を憎んで人を憎まず」という理想を人はどこまで実践できるか?が、今のこうした混迷の時代に問われ始めていることの証左なのかもしれません。

「前科者―新米保護司・阿川加代―」でも、第2エピソード(3&4話)では被害者遺族の憎悪の念が描かれますし、第3エピソード(5&6話)では麻薬中毒から立ち直ろうとしている女性(古川琴音/『街の上で』『偶然と想像』など今の若手注目株のひとりですね)に再び魔の手が忍び寄ります。

罪を犯した者の再生を拒むものの中には、周囲の偏見や邪念といった要素も確実に含まれていると思います。

その点で真っ先に思い浮かべてしまう映画が、フランス映画界を代表する大スター、アラン・ドロンとジャン・ギャバンの3度目の(そして最後の)共演となった1973年の『暗黒街のふたり』です。

ここでは出所した男(アラン・ドロン)が、彼の社会復帰を望む保護司(ジャン・ギャバン)に見守られながらも、彼の更生などありえないとばかりに執拗に絡み続ける刑事(ミシェル・ブーケ)の存在によって、やがて悲劇の道を辿っていくというストーリー。

監督のジョゼ・ジョヴァンニ自身、戦時中から犯罪組織に関わりつつ、ファシスト政党のフランス人民党に所属しながら誘拐や盗みなどを犯し続け、戦後は強盗殺人の罪で死刑宣告されながらも大統領恩赦を受けて執行を免れ、1956年に出所後は更生して小説家、映画監督として活躍したという怒涛のキャリアの持ち主です。

そんな彼だからこそ、罪を犯した者が更生していく上での苦しみや哀しみ、そして困難をリアルに描出することができたのでしょう。

コロナ禍はもとよりさまざまな理由で生活に困窮する人が増え続けていく昨今、人はいついかなるときに罪を犯してしまうかもわからない時代に、人はどこまで人を許すことができるのか?

そうした理想と現実のギャップと対峙し続けながら、映画もドラマももがき苦しみ続けていくのでしょう。

(文:増當竜也)

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(C)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会

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