2021年映画産業分析:『ARASHI 5×20 FILM』と『滝沢歌舞伎』が示した映画館の生き残る道
映画が映画館の外に出ていくなら……
ディズニーの配信シフトは鮮明であり、有力な企画がNetflixをはじめとする配信で続々実現している現実を踏まえると、洋画の興行はもうコロナ前の水準に戻らないかもしれません。『レッサーパンダ』は最初に劇場公開の予定だったため抗議される事態となっていますが、最初から配信のみであれば、映画館に言えることは何もありません。この配信シフトによる恒久的な洋画の穴は「何か別の興行の柱を作って埋めるしかないのではないか」と2020年の総括記事でも筆者はそう提案しています。
2021年、その1つの答えとなるかもしれないコンテンツが2作品ありました。
嵐のライブ映画『ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”(以下ARASHI 5×20 FILM)』と、舞台を映画館で上映する『滝沢歌舞伎 ZERO 2020 The Movie(以下滝沢歌舞伎)』です。
前者はライブを映画館で上映し、後者は舞台を映画館で上映したものです。一応、映画と銘打たれていますが、実態は「非映画系コンテンツ(ODS)」と言っていいでしょう。
とりわけ『ARASHI 5×20 FILM』は45億円を超える成績を残し、実写映画トップを獲得。ライブ映画がトップを獲得したのは初めてのケースです。『滝沢歌舞伎』も20億円超えの大ヒット。
これらの非映画系コンテンツは、映画館の興行を支える新たな柱になり得る可能性を示したのではないでしょうか。
両方ともジャニーズ関連のコンテンツであり、特に嵐は2020年で活動休止という特別な状況だったことも興行を後押ししたと思います。どちらも広範なファン層に支えられており、観客の満足度は非常に高く、レビューサイトでは高評価を記録しています。
映画館が映画以外のコンテンツに頼るのを良しとしない人もいるかと思いますが、ニーズは明らかにあるわけです。舞台やコンサートを撮影する技術やノウハウも発展しており、映画館で見せるコンテンツとして、満足度の高いものもたくさん出てきています。
この原稿を書いている現在、舞台『刀剣乱舞』が映画館で上映されています。これらの人気舞台は、チケットを取るのも大変です。本当は何回でも見に行きたいけどチケットが撮れないと嘆くファンもいるでしょう。映画館で上映されるなら、より多く鑑賞できます。
筆者がこれまで見てきた非映画系のコンテンツでは劇団☆新感線の「ゲキ×シネ」シリーズが強く印象に残っていますが、個人的には藤原竜也がハリー・ポッターを演じる舞台や、野村萬斎の狂言『鬼滅の刃』などを、クローズアップで演者の一挙手一投足を大きな画面で観てみたいなと思っています。
舞台演劇を大スクリーンで観る体験は、生の観劇とは異なる魅力があると思っています。
筆者の場合は年齢を重ねて、生の音楽ライブに行って飛んだり跳ねたりする元気がなくなってきたので、映画館で座って観られるぐらいが丁度良いんですよね。そういうニーズもあるんじゃないかと思います。マジで翌日、筋肉痛で動けなくなります。
現在の映画館を取り巻く問題は、映画というコンテンツが、配信をはじめとする映画館の外に出ていってしまっていることです。それは、時代の変化であり不可避の部分があります。なら、映画館はその時代の変化に対応するために、映画以外のコンテンツを積極的に呼び込むのもアリなのではないでしょうか。
映画館は、その場所と音響などの高スペックが魅力。それを活かせるコンテンツは映画以外にもたくさんあるはずです。そうして、多くの人に映画館の魅力に気づいてもらった先に映画文化の存続と発展もまたあるのではないでしょうか。
映連の島谷会長は、2022年の展望について「邦画・洋画ともにいい作品が揃っている当たり年」だと述べています。なんにせよ、それらの作品が無事に公開されることをまずは願います。そして、映画館も生き残るために、新しい試みにどんどんトライしていってほしいと思います。
(文:杉本穂高)
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