映画コラム
【考察】『MEMORIA メモリア』オールタイムベスト級の体験を紐解く
【考察】『MEMORIA メモリア』オールタイムベスト級の体験を紐解く
アピチャッポン流『2021年宇宙の旅』
さて、本作を観た方なら誰しもが困惑するであろう、終盤の展開について触れていく。ピハオのエルナンと波動で対話をしたジェシカは遂に“あの音”の正体に辿り着く。それは宇宙船だったのだ。ズシン、ズシンと森をかき分ける。そして、「ドスン」とあの地球の核が震えるような音を放ち去っていく。
あれはなんだったのだろうか?
『MEMORIA メモリア』にスタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』(68)の面影を重ねてみることで、腑に落ちるだろう。
『2001年宇宙の旅』は、猿人が黒い物体モノリスに触れたことで道具の使い方を覚え、やがて人類は木星付近で人智を超えた存在と対峙する話である。
ジェシカは、“あの音”を受信する。人類が得た「言葉」という道具を用いて、果てしなく遠いところを目指す。やがて、人智を超えた存在と出会うのだ。
『2001年宇宙の旅』では、高速で流れゆく光の空間を通じて、主人公しか体験できないであろう現象のお裾分けを行った。視覚効果で観客に追体験させている。
一方で、本作は聴覚を刺激する演出によりこのようなお裾分けを行っているといえる。これによりジェシカは地球の果てで、新しい道具“波動”を習得した瞬間を我々も追体験することができる。
つまり、『MEMORIA メモリア』はアピチャッポン・ウィーラセタクン監督が考える“2021年宇宙の旅”だったのだ。
『2001年宇宙の旅』は私が物心ついた時には既に不朽の名作として確固たる地位を確立させており、公開当時の驚きは言語化された。また不可解な部分は数多くの論でもって分析された。
そのため、未知との遭遇の興奮は薄れてしまったと思う。しかし『MEMORIA メモリア』は、『2001年宇宙の旅』公開当時のような衝撃を私に与えてくれた。
言語化しがたい体験の物語に涙し、本作はオールタイムベスト映画の顔ぶれに加わったのであった。
■CHE BUNBUNのオールタイムベスト映画
『MEMORIA メモリア』は私のオールタイムベスト映画に加わったため、ここにリストを残しておく。どの作品も私にとって大切な作品なので、興味を持った方には是非挑戦してみてほしい。
※(公開年,監督名)
1.痛ましき謎への子守唄(2016,ラヴ・ディアス)
2.オルエットの方へ(1971,ジャック・ロジエ)
3.ストップ・メイキング・センス(1984,ジョナサン・デミ)
4.The Forbidden Room (2015,ガイ・マディン)
5.ジャネット(2017,ブリュノ・デュモン)
6.仮面/ペルソナ(1966,イングマール・ベルイマン)
7.ひかり(1987,スレイマン・シセ)
8.見知らぬ乗客(1951,アルフレッド・ヒッチコック)
9.MEMORIA メモリア(2021,アピチャッポン・ウィーラセタクン)
10.アウトサイド・サタン(2011,ブリュノ・デュモン)
(文:CHE BUNBUN )
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Photo: Sandro Kopp (C) Kick the Machine Films, Burning, Anna Sanders Films, Match Factory Productions, ZDF-Arte and Piano, 2021