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2022年03月25日

『プロジェクトV』で感じる、“ジャッキー・チェン”のジレンマ

『プロジェクトV』で感じる、“ジャッキー・チェン”のジレンマ




ジャッキー・チェン


映画に詳しくない人でも名前ぐらいは知っている人ではないでしょうか?

もしかすると、映画は1本も見たことがないけど名前は知っているという人も、日本では少なくないのかもしれません。

身体を張った(骨折箇所多数)無茶なアクションとベタなギャグを絡めたスタイルは世界的にも高い人気を誇っています。

そんなジャッキー・チェン、(映画祭的なものを除くと)日本の劇場公開最新作は『プロジェクトV』になります。

この映画を見るとジャッキー・チェンの抱える今の想いが透けて見えます。

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『プロジェクトV』



『プロジェクトV』の原題は『Vanguard』なので全然違うタイトルなのですが、スティーブン・セガールの映画がなんでも“沈黙の”という言葉が付くように、ジャッキー映画は何かと“プロジェクト〇〇”になりがちです。

ここでのジャッキーはロンドンに本部のある中華系の人々向けの民間警備会社“ヴァンガード”の最高司令官という役どころ。

VIPの警護を任務とする特殊護衛部隊“ヴァンガード”は実業家チョンと彼の娘ファリダの護衛任務に就いていましたが、悪名高い傭兵組織・北極狼に襲撃され、2人を誘拐されてしまいます。

救出に向かうヴァンガードは、そこで巨大な組織の陰謀の渦に巻き込まれていきます。



主演のジャッキーは撮影時65歳でしたが、水上バイクでのバトルシーンなど激しいアクションにも果敢に挑戦しています。

その一方で、中国の人気俳優ヤン・ヤン、『カンフー・ヨガ』でもジャッキー・チェンと共演したミチミヤなど、アジア圏を舞台に活躍する若手俳優にも見せ場を用意しています。



監督・製作・脚本は、『ポリス・ストーリー3』『ライジング・ドラゴン』などジャッキー・チェン主演作を多く手がけてきたスタンリー・トンです。

『プロジェクトV』は一言で表すなら安心安定の“ジャッキーアクション映画”と言えます。

■『プロジェクトV』配信サービス一覧



| 2020年 | 日本 | 107分 | (C)2020 SHANGHAI LIX ENTERTAINMENT CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED| 監督:スタンリー・トン | ジャッキー・チェン/ヤン・ヤン/アレン/ムチミヤ |

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ジャッキー・チェンのこれまで



ジャッキー・チェンは1954年生まれで今年で、68歳です。もう、十二分にベテランというか、おじいちゃんに近い年齢でしょう。

そんなジャッキーは7歳から約10年間、京劇や中国武術を学びます。

その後、兄貴分もサモ・ハン(サモ・ハン・キンポー)の引きがあってスタントマンやエキストラのとして映画業界に入ります。

この頃にはブルース・リーの『燃えよドラゴン』にも参加、よく見ているとジャッキーが出ていることが分かります。

その後、ブルース・リーが急逝すると、香港映画界が新たなスター候補を探し、ジャッキーもその1人になります。ジャッキーは、しばらくは、ブルース・リーの路線であるシリアスカンフー路線で行きましたが、今一つパッとしません。

そんな中でコミカルテイスト(トーキー映画的な)アクションに活路を見出すと一気にスターとなります。

日本でもこのころの『ドランクモンキー酔拳』辺りから人気を獲得して映画俳優としてのキャリアを積んでいきます。

1980年代に入ると『プロジェクトA』『ポリス・ストーリー/香港国際警察』という2つの代表作を発表、監督も務めるようになります。

もともと、ハリウッド進出の志向があったジャッキーはたびたびハリウッド映画に挑みますが、なかなかアメリカでは成功を収められせん。



1995年の『レッド・ブロンクス』が全米興行収入1位を記録すると、1998年の『ラッシュアワー』で北米地区で1億ドルを超えるメガヒットを記録して、文字通り世界的な映画スターとなりました。

この時すでに40代に入ってましたが、その後、ハリウッドで何本もの主演作品を発表していきます。

当時、香港が中国に返還されたこともあって、香港での自由な映画製作に不安を感じた人々の多くがハリウッドに渡りました。ジャッキー以外にもサモ・ハン、ジェット・リー、チョウ・ユンファ、ミシェル・ヨーなどの俳優や、ジョン・ウーをはじめとする監督が海を渡りました。

一方で、ハリウッドにはハリウッドらしい制約の多い環境に苦労する部分もありました。

ある意味、ぶっつけ本番的な撮り方で通してきた香港映画人には、保険会社が介入してとにかく安全策を重視するスタイルもまた難題だったようです。

ジャッキーのジレンマ



ジャッキー・チェンのアメリカ進出のタイミングあたりから意識しているのは、若手の登用や教育でしょう。

1999年と2000年の『ジェネックス・コップ』シリーズや2003年と2004年の『ツインズ・エフェクト』などではプロデューサーとして参加して、若手俳優とメインキャストに登用しました。

ハリウッドから香港に帰ってきて最初に撮った『香港国際警察/NEW POLICE STORY』でもメインどころいくつかを若手キャストに譲っています。

自分の体も動かなくなってきているし、ブルース・リーの跡を自身が継いだ経験もあるので、後進の育成・発掘をする必要を感じている部分もあるのでしょう。

ジャッキー本人のキャリアだけでなく香港映画界にとっても、先々のことを考えると若い人材の発掘はもう少し必要だと言えます。

『プロジェクトV』を見ると、派手なアクション(相変わらず死にかけた)をジャッキーがやっている部分もありますが、その一方でヴァンガードのチームの若手に見せ場を譲っているところも多々あります。



ストレートなカンフー以外にもアクションのバリエーションを増やしているあたりはジャッキーの肉体的負担を減らす一方で、まだアクションの経験が浅い若手俳優への見せ場づくりにも役立っています。

ただ、その若手育成・発掘という思いとは裏腹にやはり、ジャッキー・チェンの名前があってこそ観客を呼べるという現実があります。

ジャッキーとしては自分以外の才能をもっと表に出したいという思いがある一方で、市場的にはジャッキーが前面に出てくれないと困るという、相反する状態にあります。


(C)2017 EMPEROR FILM PRODUCTION COMPANY LIMITED WANDA MEDIA CO., LTD. SHANGHAI PMF PICTURES CO., LTD KADOKAWA CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED

ジャッキーとしてはプロデューサーだけにとどまったり、監督業はほかの人間に任せたり、東野圭吾原作という驚きのチョイスの『ナミヤ雑貨店の奇蹟ー再生ー』の様に非アクション作品に挑んだりしています。

もうそろそろ、ジャッキー・チェンを諸々の束縛から自由にさせてあげたいなと『プロジェクトV』を見ると思ってしまうのです……。

(文:村松健太郎)

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