映画コラム
<考察>『アネット』カラックス過去作との決定的な“違い”とは?
<考察>『アネット』カラックス過去作との決定的な“違い”とは?
3:『ナポレオン』から観る、凶悪な偶然の嵐
■アベル・ガンス『ナポレオン』との関係性
レオス・カラックスは、フランスのストリーミングサイトLa Cinetekでアベル・ガンスの『戦争と平和』(1919)をお気に入り映画として挙げている。
『アネット』では、アベル・ガンスの『ナポレオン』(1927)を意識した演出がある。それが、ヘンリーが嵐で荒れ狂う船の上でアンを振り回す場面である。
スキャンダルから逃げるように船旅に出たヘンリーは荒れ狂う嵐の中で内なる暴力性を発揮し、アンは行方不明となる。警察から事情聴取を受けるが、何事もなく解放され、告発者の声も消滅してしまう。
『ナポレオン』に目を向ける。コルシカ独立反対派勢力から逃げるように小舟に乗りこむナポレオン。大嵐の裏で、議会では多くの同志が殺されていく。もし、逃亡しなかったら殺されていたかもしれないし、そうでなくても今まさに死が目の前に迫る状況で、偶然にも大船「偶然号」が通りかかり救助される。直後に、イギリス戦艦が通りかかり砲撃の危機に瀕するが、強運で攻撃を免れて生き延びる。それがバネとなり、ナポレオンは国を率いる存在となっていく。
『アネット』のヘンリーは、強運によって救われたことをバネに、アネットの才能を利用して第二の人生を歩もうとする。
『ナポレオン』の逃亡→死の恐怖→救済→返り咲きのプロセスを凶悪な形で踏襲させているのだ。波による左右前後の揺さぶりまで再現しながら。
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