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2022年05月23日

エキセントリックな菅田将暉“5選”|「鎌倉殿の13人」バーサーカー義経への系譜

エキセントリックな菅田将暉“5選”|「鎌倉殿の13人」バーサーカー義経への系譜


「鎌倉殿の13人」(C)NHK

「この先わたしは誰と戦えば良いのか」

壇の浦の戦いで勝利を納めた源義経は、そう呟いた。
その顔の下半分は、歯を剝き出して笑っている。だが、上半分には一切喜びは浮かんでいない。そこにあるのは、虚しさ、悲しさ、寂しさ、やるせなさといった「負の感情」だけだ。

宿願だった打倒平家を果たしたことは、もちろん嬉しい。だが、自らが「戦場でしか役に立たぬ」ことを自覚している義経は、今が「自分の人生のピーク」であることに気づいている。木曾義仲に勝ち、平家も倒した今、自分の役割はもう終わってしまった。

戦いの場でしか生きられない男=バーサーカーであることを自覚しているからこその、”あの”表情なのだ。

“あの”表情を観た時、筆者は鳥肌が立った。
あの複雑な感情を表情ひとつで見せてしまう、菅田将暉という役者はすごい。すごいことは元々知っていたが、改めて痛感してしまった。


「鎌倉殿の13人」(C)NHK

源義経という人物は「判官贔屓」という言葉に代表されるように、“悲劇のヒーロー”として描かれることが多い。

しかし「鎌倉殿の13人」における義経は、そんなステレオタイプの英雄ではない。

戦いをなにより愛し、勝つためには手段を選ばないエキセントリックな人物として、かと思えば優しさや悲しさも併せ持つ人間臭い人物として、複雑で簡単には言い表せない描かれ方をしている。

そんなエキセントリックで、かつ複雑な菅田将暉を観られる映画を5本、紹介したい。

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『海月姫』女性な菅田将暉


(C)2014映画「海月姫」製作委員会 (C)東村アキコ/講談社

「女性的な菅田将暉」の誤植ではない。あくまで「女性な菅田将暉」である。正確には「女装の菅田将暉」なのだが、その女装姿が完全に“女性”なのである。

菅田将暉演じる鯉淵蔵之介は、普段はただのイケメン大学生でありながら、女装を趣味としている。
その蔵之介の初登場シーン。

女装した、その立ち姿、体のライン、ウエストの細さ、足の美しさ……すべて完璧な女性であった。いや、ただの女性ではない。絶世の美女だ。


(C)2014映画「海月姫」製作委員会 (C)東村アキコ/講談社

この役を演じるにあたり、菅田将暉は相当なダイエットをしたそうだ。だが普通の男性がいくら瘦せようが、いかつさやゴツさはどうしても残る。

しかし菅田将暉の場合、骨格から何から完璧な女性のそれであり、いかつさやゴツさのかけらもない。なんなら、撮影に際して男性ホルモンを取り出して家に置いてきたのではないか。そんな疑念さえ湧いてしまう。

ちなみに、筆者も昔は売れない役者であり、その頃に舞台で女装をしたことがある。ゴツめの体型の筆者が露出多めの女装で舞台に立った時は、悲鳴混じりの笑いが起こった。

だが、これは完全な「出オチ」である。筆者の女装にすっかり飽きたお客様の前で、そのカッコのまま芝居を続けるのは軽い地獄であった。


(C)2014映画「海月姫」製作委員会 (C)東村アキコ/講談社

しかし、菅田将暉の女装は「出オチ」ではないのだ。永遠に見ていられる女装である。劇中、たまに男性に戻るのだが(その際は完全に男性であるから、またすごい)、「男に戻らないで! ずっと女でいて!」と哀願してしまう。

そんな、観る者の性癖さえ歪めてしまう怪しい菅田将暉を、まずは観てほしい。

『王様とボク』子供な菅田将暉


(C)2012「王様とボク」製作委員会

「子供のような菅田将暉」の誤植ではない。あくまで「子供な菅田将暉」である。正確には「見た目は大人、頭脳は子供の菅田将暉」なのだが、その姿は完全に“子供”である。

6歳の時にブランコから転落し、昏睡状態のまま眠り続けたモリオ(菅田将暉)は、18歳のある日、突然目覚める。

体はキッチリ成長して身長176cm(菅田将暉の公式身長)になってるわけだが、知能は6歳のままだ。

その“逆コナン状態”の菅田将暉が、またすばらしい。
ふにゃふにゃヘラヘラしていて、「そうだよな~。これぐらいの年齢の子供って、ふにゃふにゃしてるよな~」と思い出す。


(C)2012「王様とボク」製作委員会

かの松田優作は、『野獣死すべし』において役作りのために奥歯を4本抜いたが、今作の菅田将暉は骨を何本か抜いているのではないか。そう思わせるぐらいのふにゃふにゃ具合である。

ちなみに、筆者も昔は売れない役者であり、その頃に舞台で子供の役を演じたことがある。当時20代半ばの筆者は、ランドセル背負って半ズボン履いて、精一杯天真爛漫に舞台を走り回った。

終演後、観に来てくれた友人に感想を求めたところ「あんなに筋肉質で体幹のしっかりした子供はおらん」と、斬って捨てられた。

そう。子供は、体幹や足腰がしっかりしてはいないのである。
今作の菅田将暉の体幹は、見事なぐらいしっかりしていない。というか、そもそも体幹がないのではないか。


(C)2012「王様とボク」製作委員会

その“不安定さ”は、肉体面のみならず精神面にも及んでいる。

子供特有の情緒の定まらなさ。楽しそうだったのに急に飽きる。口を尖らせて甘える。
「おうちに帰りたい。お母さんに会いたい」と言って、泣く。

だが、モリオの両親はすでに離婚しており、モリオ自身も施設で暮らしている。モリオの両親は、それぞれすでに別の家庭を築いている。

モリオには、もう帰る「おうち」はないのだ。

切なく美しい良作である。“6歳”の菅田将暉を、ぜひ観てほしい。

『ピンクとグレー』モテない菅田将暉……か?


(C)2016「ピンクとグレー」製作委員会

この作品における菅田将暉演じる“りばちゃん”を見ていると、無意識に自分の学生時代と重ね合わせてしまう。そんな男性は多いのではないだろうか。

学生服の下にパーカーを着て、詰襟からフードを出すという精一杯のおしゃれ。
かっこつけてギターを始めるが、Fが押さえられなくて挫折する。

父親のAVを見つけた友人の家に集まり、大観賞会を開く。(その友人は、その後一目置かれる)
Tシャツの袖を肩までまくり、細い腕を晒す。
そして成功し、遠くに行ってしまった親友に嫉妬し、やさぐれ、挙句に彼女に当たる。

筆者はすべて当てはまり、共感性羞恥で舌を噛み切りそうになった。

なぜ多くの男性が、この”りばちゃん”に共感してしまうのか。
菅田将暉が、見事に”元気で人気はあるけどモテない”キャラになりきっているからだ。

“モテモテキャラ”に共感できてしまうような、そんな恵まれた星に生まれた男子は観なくていい。
ただ、同じ顔のままで“モテモテキャラ”を演じても、なんら違和感のない菅田将暉が恐ろしい。


(C)2016「ピンクとグレー」製作委員会

「ところで、これのどこがエキセントリックな菅田将暉なの?」と思う方もいるだろうが、安心してほしい。

後半から、一気にエキセントリックに“振り切れる”。
ネタバレになるので名言は避けるが、“菅田将暉史上もっとも不快な菅田将暉”を観ることができる。

ひとつの作品の中で、ここまで振り幅の大きい役をこなす役者を、初めて観たかもしれない。

『キャラクター』憑依する菅田将暉


(C)2021映画「キャラクター」製作委員会

漫画家を志すがなかなか芽が出ない青年・山城(菅田将暉)は、偶然殺人現場を目撃してしまう。その犯人(Fukase)をモデルにした漫画を描いた山城は人気漫画家となるが、犯人に付きまとわれるようになり……。

漫画を描く時、菅田将暉にサイコパス殺人鬼が憑依する。過呼吸になりながら描く様は、鬼気迫る。

事件を捜査する刑事が、小栗旬と中村獅童のコンビであることも、「鎌倉殿」ファンには嬉しい。この2人は、漫画家としての山城の理解者でもある。


(C)2021映画「キャラクター」製作委員会

自らの漫画が更なる模倣犯的殺人を引き起こしてしまい、山城は漫画を描けなくなってしまう。その山城を励ますのが、この2人。

北条義時と梶原景時が源義経を励ますという絵面に、筆者は軽く落涙しそうになった。

Fukase演じる殺人鬼には、手下がいる。
16歳の時に殺人を犯した中年男。ボサボサ髪の薄い頭。見るからに冴えない風貌。オドオドした態度。ハッキリしない喋り方。かと思えば、突然キレる。


(C)2021映画「キャラクター」製作委員会

「この、すごくリアルなサイコパスを演じている人、どこかで見たことあるな……」
と思っていたが、エンドロールを見て卒倒した。松田洋治だった。

『ナウシカ』のアスベルや、『もののけ姫』のアシタカを演じた人だ。
あの中年サイコパスが「味はともかく長靴いっぱい食べたいよ」とか「わが名はアシタカ!」とか言ってるのだから、俳優という生き物は恐ろしい。

『あゝ、荒野』バーサーカー菅田将暉、そして蘇る義経


(C)2017「あゝ、荒野」フィルムパートナーズ

「少年院帰りのチンピラが、片目の元ボクサーにスカウトされ、ボロボロのジムに寝泊まりしてチャンピオンを目指す。この物語のタイトルは?」

このように質問された場合、ある年代以上の人の九割九分は「あしたのジョー」と答えるだろう。
残念ながら正解は『あゝ、荒野』なのだが、確かに菅田将暉主演の『あしたのジョー』はぜひとも観たい。


(C)2017「あゝ、荒野」フィルムパートナーズ

顔はかわいいが、アウトローで喧嘩屋。戦いの中でしか、生きることができない。
確かに「ジョー的」だが、同時に「鎌倉殿」における源義経もオーバーラップする。

「1189年、衣川の戦いで非業の死を遂げた源義経が、2021年の東京で新宿新次というボクサーになった」と思って観ると、三割増しで感慨深くなる。

バーサーカーな新宿新次(リングネーム)だが、唯一のジムメイトであるバリカン建二(これもリングネーム)にはとても優しい。


(C)2017「あゝ、荒野」フィルムパートナーズ

ふたりの楽しそうな合宿生活は大変微笑ましいのだが、新次も建二も「戦いでしか繋がれない」人間だ。従ってふたりにとっての友情とは、「殴り合い」でしか確かめることができない。ベタベタとつるんで傷を舐め合うようなものではない。

当然クライマックスは、ふたりの壮絶な対決となる。
器用に生きられないふたりの殴り合いは、激しく痛々しいが、美しくもある。
こんなにもボロボロになるまで自分と「殴り合ってくれる」友と巡り会えたことは、幸せなことなのだろう。


(C)2017「あゝ、荒野」フィルムパートナーズ

菅田将暉ファンはもちろん、ボクシング・ファンにもぜひ観てほしい。5時間あるけど。

健闘を祈る。

「帰ってきた義経」


「鎌倉殿の13人」(C)NHK

「九郎、よう頑張ったな! さぁ、聞かせてくれ。一の谷、屋島、壇の浦、どのようにして平家を打ち倒したのか。お前の口から聞きたいのだ」

頼朝は、義経の首桶に語りかける。やさしく。もちろん、首桶はなにも答えない。
首桶に取りすがって泣く頼朝。

頼朝は以前、「平家を打ち倒した後は、お前と朝まで語り明かしたい」と語っていた。
義経も、「その時は、如何にして平家を打ち倒したかを、兄上にお聞かせしたく存じます!」と答えていた。


「鎌倉殿の13人」(C)NHK

例のキラキラした目で。冷静に見ればひどいこともたくさんしているのに、ついつい許してしまう、あのキラキラした目で。

頼朝も義経も、それを望んでいたはずだ。義経は、ただただ兄上を喜ばせたかっただけだ。頼朝も、弟を殺したくはなかったはずだ。

藤原泰衡の軍勢に攻め込まれ、観念した義経は、北条義時にどのようにして鎌倉に攻め込むつもりだったかを、話す。楽しそうに。得意げに。子供のように。

本当は、兄上とこのように話したかったのだろう。そして、大好きな兄上に褒めてほしかったのだろう。

義経の父とも言える存在、藤原秀衡が言う。
「平家を倒したのはお前だ。よくやった、九郎」
涙を流す義経。この言葉は、兄上に言ってほしかった言葉だ。


「鎌倉殿の13人」(C)NHK

「鎌倉殿の13人」第20回において、想像通り義経は死ぬ。筆者は、ラスト20分涙が止まらなかった。

藤原秀衡を頼るが秀衡は死んでしまい、結局息子の泰衡に攻め込まれ、妻子を殺して自害する。
ほぼ史実通りの展開で、想像していた通りの展開なのに、なぜこんなに泣けてしまったのか。

それは、菅田将暉演じる源義経があまりにも魅力的だったからだ。

「源義経は死なず、モンゴルに渡ってチンギス・ハンとなった」
そんなトンデモ伝承を実際にドラマで真面目にやられたら、呑んでた缶ビールをテレビに投げると思う。


「鎌倉殿の13人」(C)NHK

だが菅田・義経にだけは、興醒め展開でもいいから生き残ってほしかった。

この時代に詳しい人なら、このドラマにおける魅力的なキャラがこれからも非業の死を遂げることを、ある程度予測できているだろう。

このドラマを最後まで平常心で観続けるコツは、どれだけ魅力的なキャラが登場しても感情移入しないことだ。フラットに無感情に観ることだ。無理だけど。

恐らく筆者は、これからも菅田将暉の演じる役柄に感情移入し過ぎるだろう。そして、感情移入し過ぎたがために、ハッピーエンドじゃなかった時に辛い辛い思いをすることになるのだ。

もう、それで構わない。辛い辛い思いもひっくるめて、菅田将暉を追い続ける覚悟を決めた。

(文:ハシマトシヒロ)

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