2022年06月10日

BiSH短編オムニバス映画インタビュー:アユニ・D「この映画で違和感を刻まれてほしい」

BiSH短編オムニバス映画インタビュー:アユニ・D「この映画で違和感を刻まれてほしい」


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2023年をもって解散を控えた、“楽器を持たないパンクバンド”BiSH。このタイミングで、メンバーそれぞれを主演に迎えた6本の短編オムニバス映画『BiSH presents PCR is PAiPAi CHiNCHiN ROCK'N'ROLL』が公開となる。

6月10日(金)の封切りを前に、cinemas PLUSではBiSHメンバー全員にインタビューを実施。本記事では、タイトル『オルガン』の主演を務めたアユニ・Dの言葉をお届けする。

本作で彼女が演じるのは、兄・竜一の突然の死に向き合おうとする妹・あーこ役。人生初の演技体験を振り返るなかで、彼女から出てきたのは「この映画を見て、何かしらの違和感を刻まれてほしい」といった強い言葉だった。

タイトル『オルガン』に込められた意味


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――アユニさんが主演を務めた『オルガン』は、これまでBiSHのドキュメンタリー映画も手がけてきたエリザベス宮地監督との共作ですね。今回のタッグが決まった感想を教えてください。


アユニ・D(以下、アユニ):もう、めちゃくちゃ嬉しかったです。メンバーと監督の組み合わせは事前に知らされてなくって、監督側であみだくじをして決めたらしいんですけど。奇跡的に相性の良い組み合わせになったな、と思いました。

エリザベス宮地監督は、自分がソロでやっているバンドプロジェクト・PEDROの全国ツアーにも、カメラを持って帯同してくれたことがあって。単なるビジネスパートナーの枠を超えた信頼関係があるんです。『オルガン』は、私と宮地監督ゃないと実現できない作品になりました。


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――『オルガン』、とても印象的なタイトルですよね。

アユニ:宮地監督がつけてくださいました。どうして『オルガン』ってタイトルにしたのか、理由については話してないんです。

自分で調べてみたら、オルガンには「臓器」って意味もあるみたいで。観ていただければわかると思うんですけど、このタイトル以外にはありえないくらい、映画とリンクしてます。

初めて見る臓器の写真に「空いた口が塞がらない」


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――この物語は「臓器をモチーフにした写真」がひとつのキーとなっていますね。本編で使われている写真は、兄・竜一を演じられた石川(竜一)さんの作品だそうですが、写真をご覧になって、アユニさん自身は何を感じましたか?


アユニ:見た瞬間は言葉が出なかったです。石川さんは写真家でもありますが、本作で演じられた竜一と同じように狩猟もされていて。自分で獲った動物を解体して写真に記録しているんです。

臓器ってグロテスクですけど、生き物の身体のなかには共通して存在するものじゃないですか。だから、美しいものでもあるんだろうなって、冷静になると思えるんですけど。彼の生き様が込められた写真を初めて見たときは、空いた口が塞がらなかったですね。

写真を通してではありますけど、こんなに臓器を間近で見る機会もなかったので、発見も多かったです。凹凸がなくてつるんとしてたり、逆にここに凹凸があるんだなと新鮮に思えたり。


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――臓器の写真を見ながら、ハンバーガーを食べるシーンもありましたね。

アユニ:「食べながら喋る」って、普段は普通にやってることですけど、実際にやってみるとめちゃくちゃ難しかったです。兄妹の何気ない会話をおさめたシーンのはずなのに、セリフを流暢に口にできなくて、パニックになっちゃって……途中で撮影を止めちゃったりもしました。

宮地監督が現場から連れ出してくれて、少し離れたところで落ち着かせてくれて。役を演じることも大切だけど、それと同時に私自身の気持ちも尊重してくれて、とってもありがたかったですね。

真剣さを肌で感じた撮影現場


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――アユニさんにとって初めての演技経験となりましたが、撮影現場はどんな空気感でしたか?

アユニ:まさに「真剣」な時間だったと思います。私が心から信頼するチームと、宮地監督が日頃からものづくりをしている仲間たちが集まった現場でした。私はもちろんのこと、宮地監督自身もドキュメンタリーではない映画作りは初めてだったんじゃないかな。

ドキュメンタリーを撮っている宮地監督は、撮られる人と撮る人の信頼関係を深めること、自然に生まれる他愛のない会話を映像に収めること。それらを大事にしているように見えて。でも今回は、監督として作品を背負っている覚悟のほうが強かったんだと思います。

宮地監督のあんなに真面目で怖い顔は、初めて見ました。右も左もわからない私に、いろいろ教えなきゃならないプレッシャーもあったはずなので。


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――これまでの仕事現場とは、違う景色があったんですね。客観的にご自身の演技をご覧になって、まず何を感じましたか?

アユニ:無理してないな、と思いました。宮地監督とは長い付き合いで、撮影前に「アユニ・Dの生態調査」みたいなことまでしてくれて、あーこの役柄に私のパーソナルな部分を入れ込んでくれたんです。そのおかげで私は、ありのままの自分で演技に臨めたんだと思います。

とてもナチュラルに演じられたと思う反面、あーこがあまりにも自分に近すぎて「普段どうやって手を動かしてたっけ」とか「どんな会話の間の置き方をしてたっけ」とか、考え込んじゃうことも……。でもそれだけ、自分自身と向き合う時間にもなったのかな、と思います。

この映画に違和感を刻まれてほしい


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――本作では高良健吾さんと共演されていますね。


アユニ:役者さんって、どうしてこんなにも表現力があるんだろう、って圧倒されちゃいました。たとえば、ただ「うん」って相槌を打つだけでも、前もって用意されたセリフのはずなのにめちゃくちゃリアルで。

役者さんとしていろいろな壁や苦労を乗り越えてきたからこそ、見る人の心をつかむ表現力を培ってこられたんだろうな、と想像できました。


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――今後、映画やドラマなど、演技の仕事に対する興味はどれくらいですか?

アユニ:もう、興味しんしんワクワクしんしんです!(笑)

今回の経験で、作品作りにはたくさんの人の時間と愛があってこそなんだと学べました。役者としての自分が必要とされてるかはわからないですけど、私にとって演技をしている時間は、苦しくも楽しい時間だったので。機会があれば、また挑戦したいです。


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――これから映画をご覧になる観客の方へ、メッセージをお願いいたします。

アユニ:私が主演を務めた「オルガン」は、6作品のなかでも、とくにシビアで生々しい物語です。この映画から、何かしらの違和感を掴みとって、爪痕や傷跡のようなものを刻まれてほしいと思ってます。

生きていくうえで何気なくやっている行為、たとえば食べるとか写真を撮るとか、そういった細やかなことにも向き合っていこうと思える。そんなきっかけにしてもらえたら嬉しいです。

(撮影=Marco Perboni/取材・文=北村有)


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