頼りなさが強さに変わる小栗旬“3選” | 「鎌倉殿の13人」“強さ”の向かう先に待っているもの
『岳-ガク-』
ここまで、序盤は頼りなかった小栗旬の成長を見守る作品を2本、紹介した。最後の作品である、この『岳-ガク-』だけは、少々趣きが異なる。
主人公・島崎三歩(小栗旬)は、山岳ボランティア。本職の警察山岳救助隊にも、敬意を持って「山そのもの」と評されるような、言わば”山の神”のような男。
序盤からいきなり「プライベートの登山中に」遭難者を救出し、”山の神”ぶりを見せつける。『宇宙兄弟』『キツツキと雨』の小栗旬とは違い、「最初から頼れる」のである。
だがそれは「山限定」の話だ。
三歩には「住所」がない。日本アルプスの山中に、テントを張って暮らしている。山中なら庭のように縦横無尽に歩き回れるのに、たまに下界に降りると、どれだけ地図を見ても道に迷う。
いついかなる時もニコニコしているが、デリカシーや忖度などは皆無である。
三歩は、山でしか生きられない。山以外で生きるつもりもない。
クライマックス、遭難したヒロイン(長澤まさみ)を命を張って助ける。普通の映画なら、抱き合ってキスのひとつでもするところだ。そのまま恋愛関係に発展したことを示唆して、エンドロールが流れ出す。
この作品には、そんな描写は一切ない。おそらく三歩には、「恋愛感情」という概念もないのではないか。三歩にとって、山以外のすべてのものは必要がないのだろう。映画ではそこまで描かれないが、原作では、ヒロインは別の男性キャラと普通に恋愛して普通に結婚するのである。
人間としてはあらゆる面でダメダメだが、山に入ればスーパーマン。その、両極端の性質を併せ持つ”脆さ”や”危うさ”が、この作品の小栗旬の最大の魅力だ。
そして、『鎌倉殿の13人』
序盤の頼りなさがウソのように成長した義時。だがその成長ぶりは、必ずしも喜ばしいものではなく。主君・源頼朝の非情なやり口を、当初は拒絶していた義時。だが、盟友・三浦義村(山本耕史)に指摘されたように、義時は頼朝に似てきてしまった。
上総広常(佐藤浩市)を誅殺した時も、源義経(菅田将暉)が討ち取られる時も、義時は涙を流しながらも、それを阻止することはなかった。
歴史に詳しい人なら既にわかっているだろうが、頼朝が死ぬことで、この辛い展開が終わるわけではない。
それどころか、以後、義時は「自らの意思で」、かつての仲間を排斥していくこととなる。
今後、義時は、より黒い方に黒い方に成長して行くのか。あるいは……。
あの、「頼りなかった」義時はもういない。仲間や愛する人の死を経て、義時は「強くなった」。新たに頼朝の死を経て、さらに義時は「強く」なるだろう。その「強さ」の向かう先に待っているものは、さらなる地獄か。それとも……。
(文:ハシマトシヒロ)
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