映画ビジネスコラム
<考察>『ONE PIECE FILM RED』記録破りの大ヒットを生んだ戦略と時代背景
<考察>『ONE PIECE FILM RED』記録破りの大ヒットを生んだ戦略と時代背景
推しの晴れ舞台としての映画館
ネット時代にコンテンツの流通は、劇的に変化しました。
音楽ならいつでもサブスクリプションサービスで聞き放題、ミュージックビデオもYouTubeでたくさん観られるようになり、音楽コンテンツを消費するならお金はそれほどかかりません。代わりに音楽産業の重要な収益源として、ネットで体験できないライブが重要視されるようになりました。
映画やアニメについても、Netflixに代表されるサブスクリプションサービスが伸長し、多くのコンテンツを低価格で利用できるようになっています。音楽同様、映画やアニメにも非日常の体験が重要になってきていると言えるでしょう。
映画館が配信に対して活路を見出すとすれば、非日常の体験であり、ライブのように「推しの晴れ舞台」を一緒に味わえるかどうかが鍵になるでしょう。
映画館は今、二次元キャラクターにとっての晴れ舞台と認識されています。バーチャルシンガーが武道館でコンサートする例はありますが、二次元キャラクターには映像を映す画面がどうしても必要であるため、現状一番大きな晴れ舞台は映画館なのです。
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』公開時には「煉獄さん400億の男」のフレーズが流行りました。このフレーズは興行収入400億円の大記録を達成したファンの喜びを、キャラクターと共にに分かち合いたい気持ちを端的に表していると思います。二次元キャラクターの晴れ舞台としての映画館を象徴する言葉でしょう。要するに、映画館で記録を打ち立てることは、二次元キャラクターにとっての一種のステータスのように感じられているのではないでしょうか。
この現象は『劇場版 呪術廻戦 0』の主人公、乙骨憂太にも見られた現象です。毎年大きな数字を叩き出す『名探偵コナン』シリーズも、近年は人気キャラの誰かをフィーチャーするストーリー作りを心がけています。
では『ONE PIECE FILM RED』は誰の晴れ舞台だったかというと、やはりシャンクスです。
シャンクスは、本編でも活躍が描かれていない分、映画館という晴れ舞台での期待はその分大きくなったのでしょう。しかも実は娘がいたという事実が明かされたため、ファンにとっては相当気になる内容だったはずです。
そして、公開タイミングも最高でした。原作では最終章に突入しようというタイミングでの公開となり、原作本編でもいよいよシャンクスが本格的に物語に絡んできそうな気配を漂わせていたため「こ見届けけなければ」という雰囲気ができていました。
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©尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会