映画ビジネスコラム
<考察>『ONE PIECE FILM RED』記録破りの大ヒットを生んだ戦略と時代背景
<考察>『ONE PIECE FILM RED』記録破りの大ヒットを生んだ戦略と時代背景
映画館の魅力は“音”
様々な要因があってこの大きなヒットになっている『ONE PIECE FILM RED』の中でも、最も重要な要素は「音楽映画」である点かもしれません。
谷口悟朗監督は、過去作の興行成績や動員数などのデータをできるだけ参照して「劇場に足を運んでくれるファン層」に向けた作品にすべく、緻密にマーケットリサーチを行っていることを示唆しています。また近年のヒット映画の傾向として、『ラ・ラ・ランド』(17)や『グレイテスト・ショーマン』(18)などのミュージカル映画や歌を前面に押し出した作品が、自身の予想に反してヒットしたと指摘しています。
確かに近年、音楽をフィーチャーした作品のヒットが目立ちます。『ボヘミアン・ラプソディ』(18)の大ヒットは多くの人にとって予想外でした。さかのぼれば『アナと雪の女王』(13)もありましたし、『君の名は。』(16)のRADWIMPSの楽曲に合わせた映像は多くの人の印象に残ったでしょう。昨年は『竜とそばかすの姫』(21)や嵐のライブドキュメンタリーも大ヒットしています。
『ONE PIECE FILM RED』ではウタの歌唱役にAdoを迎えて、中田ヤスタカや秦基博など、7名の豪華作曲家陣が競うように楽曲を提供しています。音楽によって物語をドライブさせていく構成になっており、ウタの心情描写も音楽に託している面がかなり多い作品です。
音楽という要素は、今「わざわざ」映画館で映画を観る理由を作りだしていると言えます。やはり、自宅で配信で鑑賞するのと映画館での鑑賞を比べて、最も大きな違いは音の質です。映画館は外界の音をシャットアウトして、サラウンド環境で映画の世界の音だけを聞かせることができます。
映画館の音響環境を用意することは難しく、音楽を良い音響で聞けるというのは、映画館に足を運ばせる強力な動機付けになり得ます。
近年、特殊な音響やスピーカーを導入することを売りにした映画館が多くなりました。自宅での配信視聴との差別化しやすい要素が音だからであり、音の良さが特別な映画館ならではの体験を生み出しているという面があるため、音楽映画は強いわけです。
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©尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会