映画ビジネスコラム
<考察>『ONE PIECE FILM RED』記録破りの大ヒットを生んだ戦略と時代背景
<考察>『ONE PIECE FILM RED』記録破りの大ヒットを生んだ戦略と時代背景
タレントと声優、今どちらの方が集客力があるのか
『ONE PIECE』の劇場版では、毎回ゲストで一般のタレントや有名俳優が出演することが慣例となっています。本作にも山田裕貴、霜降り明星の2人に新津ちせが出演していますが、あまり大きな役ではありません。これまでの劇場版では、ゲスト出演者はもう少し大きな役どころで起用されていました。
従来のゲスト起用は、そのタレントの集客力を期待していた面があったと思われます。しかし、今は本職である声優の集客力が無視できないものになってきているのではないでしょうか。
今年は、外国映画の吹替版で本職の声優が起用されることがプレスリリースで配信され、各メディアでニュースになることが多かった印象です。『ザ・バットマン』ではファイルーズあいが起用され、アメリカの俳優へのリモートインタビューも行うプロモーション活動もしていました。
『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』では鬼頭明里がアメリカ・チャベス役に起用され、長年ベネディクト・カンバーバッチの吹替を務める三上哲とともにインタビューも多く見かけました。
『トップガン マーヴェリック』では、トム・クルーズの吹替を担当する森川智之が戦闘機に乗り込むカッコいいプロモーション動画を作っていたのが印象的です。
外国映画の舞台挨拶に吹替声優が登壇することも当たり前のようになってきています。実写映画が声優の集客力を欲しているという逆転現象が生じているわけです。
テレビドラマやバラエティ番組でも声優の姿を見かける機会も増えています。このような動きは、声優に集客力があると認識されていることの表れだと思われます。
その意味でウタに名塚佳織を起用したのは良い選択であり、彼女の芝居はとても説得力のあるものでした。
以上の様々な要因が上手くハマるように、谷口監督や東映アニメーション、そして原作の尾田氏がコントロールしたことで大ヒットを導くことができたのでしょう。
東映配給の映画が100億円を超えるのはこれが初めて。というより、東宝と洋画以外では『ONE PIECE FILM RED』が初めてです。本作が起こした現象は、東宝の一強状態だった日本映画市場を変える事態であり、日本映画全体にとっても大きな意義があるものです。
マンガで多くの歴史を塗り替えてきた「ONE PIECE」は、映画の世界でも歴史を塗り替える大きな仕事をやってのけたのです。
(文:杉本穂高)
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